ミヨイへの旅
彼はミヨイを知っていた。 ミヨイならこっちだ、言われるままについていく。私はミヨイを捜していた。気が遠くなるほど前から捜していた。けれども、ミヨイは見つからぬ。それでも諦めることは出来ずまた捜す。そんなことを繰り返し、半ばは、もう会えぬものと思っていた。 ミヨイに会いたいだろう? 当たり前だと返すと、途端歓喜と疲れがにじみでる。長い時を越えてもう一度ミヨイに会えるなら、他には何も望まないが、いざ会えるとなると、捜し歩いた月日が無駄に遠く長い。ミヨイを捜さず彼を捜せば、もっと早く会えただろうかと思わずにいられない。それにしても、彼は誰だろう。 君は随分歩いてきたのだね。彼はミヨイへの道をたどりながら話しかける。もちろん、と応える私の感慨もひとしおだ。一足ごとに、ミヨイに近付く。ああ、ミヨイ、もうすぐ会える。私の嬉しさが伝わったか、彼は少し微笑して、嬉しいかと問いかける。当然だ、応える声に力が入る。 さあ、着いた、ミヨイはここだ。彼は私を、小さな丘に案内した。ミヨイはいない。土の匂いと、草ずれと、照り渡る太陽が私を迎えた。 彼は言う。ミヨイは死んだ、ずっとずっと前にだ、私は、彼の若き日を急に思い出す。彼が誰であったか、その答えは私の中にあったのだ。 ミヨイの愛する男、そしてミヨイを愛する者。 そうだったのか、ミヨイは死んだのか。得心がいく。見つからなかったのは、少し遅くなっても待っててくれるはずなのに、見つからなかったのは、そのせいなのか。それならば、そう、それならば。 「君もいくといい。あちらにはミヨイがいるよ」 彼は天を指す。昇っていったのだと理解する。私より先に、ミヨイはこの道を行った。 ミヨイ。ミヨイを求めて、昇りだす。頭上の道を昇ったら、ミヨイに会えなくなると思っていた。ああ、でも、ミヨイが先に上にいっていたならば、下ばかりを捜すのでなかった。けれどもうすぐに会えるのだから、よしとしようか。 ミヨイ、すぐに会いにいくよ。待っていて。 私は昇る。彼は天を仰いで、見送ってくれた。 ――嵯峨妙子、享年三十七歳。死ぬ寸前まで、若々しく美しかった。好きあった男との間に長男をもうけた彼女は、胸の病で命を落とした。タエコの妙をとって、ミヨイちゃんと呼ばれていた。 彼女は動物をこよなく愛した。家では飼えずとも、好きな男と一緒に拾った猫を校舎裏で育てた。毛並みの美しい黒猫だったが、名を付ける前育つ前に、儚く消えた。 小さな墓をこしらえながら、彼女は言っていた。“また私のところに来てね”と。 黒猫はその言葉に惹かれて、ミヨイを捜した。ずっと、ずっと。
*超突発的に書いてしまった作品。字数制限をもうけたのですが、失敗してアウト。もったいないから載せてみる。
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