ヤイバが憎い
ソレは言った。 “刃物よりも、毒よりも、何より確実に私を殺せるモノを、あなたが持ってる” 俺の首を絞めながら。長い髪をまとわりつかせ、白い肌に浮き立つほど黒い瞳を全く動かすことなく。 “憎い。憎い。あなたが嫌い。あなた、私を殺すの。だから私、あなたを殺すの” 声を出したくても出せない。ひゅうっと喉から空気が漏れる。目の前が暗くなり始め、ソレの手を引き剥がそうとする自らの手が力を失っていくのがわかる。 “あなた、私を殺すわ。刃よりも、炎よりも一瞬で” ふっと真っ暗になる。意識が途切れるその寸前、ソレはぐっと、憎しみを全て伝えようとするかのように、一際強く俺の首を絞めあげた。そして、ぽつりと。打って変わって、聞き逃しそうになるほど弱々しい声で。 “言葉でだって、私は死ぬのよ” お願い、と懇願された気がした。けれど、俺の意識は闇の中、声も姿もすでになかった。 悪夢。うなされ目覚めて、首を絞められた感触が、夢なのにひどく生々しく、気持ち悪くて起き上がれなかった。その日、学校を休んだ。 そして夜、連絡網が回る。 “いじめられっこの小向井さん、飛び下りて死んだって” その瞬間、フラッシュバック。 ――あなた、私を殺すの。 小向井は冴えない女子。根暗でブスで太っていて、腰まである長い髪が妙に気持ち悪かった。俺はだから、よく言った。 なんで髪伸ばすんだよ。似合わねぇくせに。 長い髪に愛着があると知っていて言ったのだ。そして小向井はそのたび泣いた。俺は、ただ面白かった。 ハグられてた。でも小向井には、孤独を生んだ周囲よりも、俺の方が憎かったのか。俺のせいで、死んだのか。 ――言葉でだって、私は死ぬのよ。 首を絞めた女を思い出す。あの長い髪、小向井か。 “お願い、私を殺さないで” そう願ったあの言葉。でも今更後悔しても、もう遅いのだ。 ・・・そして、夢で首を絞められた、その時のように、俺の目の前は真っ黒に染まった。
うーわー救われねー。
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