天の羽根



 誰かに触れていたかったよ。

 この羽根を、手に入れるよりは。

 

 

 羽根から何を連想する? ありきたりだけど、私は天使を思った。ヒトは儚い、だから天は身近だ。死んだらきっと、天使が迎えに来ると思ってた。悪いことをしてない自信なんてないけど、私は天にいけると思った。ただ私には、死が隣り合わせの存在に思えただけ。そしてきっと、死んだヒトは誰でも天国にいくのだと思ったんだ。

 常々そう考えていたから、今こうして突然死んでしまっても、たいした悔いも感じなかった。ちょっとだけ、あの本の続き読みたかったなとか私が死んだらお母さんは平気かなとか思っただけ。それだって特別な未練ではなくて、やっぱりちょっとだけ、あっけないなと感じていたよ。

 でも、これはないんじゃない? 天使は来なかった。ただ、空中をあてもなくふわふわするだけの私の背に、真っ白い翼が生えただけ。自分で飛んでこい、ってことなんだろうね。天国にいけるかいけないか、実はそんなチャレンジじみたものだったみたい。

 でもね、ひどすぎない? 死んだ時、きっと絶対間違いなく誰かが迎えにきてくれるものだと思ってたのに。たとえそれが天使以外の、悪魔とか神様とか、ヒトが都合よく信じてるモノ達でも、誰かしら迎えがくるものだと思っていたのに。――死んでなお、私は一人?

 思えば、いつも一人だった気がしてる。友達はいたし、いじめにもあってなかった。でも、私は一人だった。孤独だったんだ。・・・心が。時々無性に誰かにくっついていたくなって、でもいきなりそんなことおかしいっていう変な認識に邪魔されて。友達同士が手に手をつないで歩く姿が、いつだって本当はうらやましかった。そうやって歩いてみたかった。時には互いを分かつように抱き合って。それは別に男女である必要もなく、誰でも良かった。ただ、なんだか寂しかった。いつだってとっても一人に思えて、私はヒトを感じていたかった。

 

 ――今私は死んで、綺麗な真っ白い羽根を手に入れて、天国目指して飛んでいくことになる。そこにいけば、こうも寂しくはないかな? 宙に漂う今よりも、生きている時よりも孤独感が募ったなんてことには、ならないかな。

 ねえ、翼を生やした私は、今はもう誰にも触れられない。見向きもされない。本当は、もっともっと、この羽根を手にする、前に。




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