天の末裔と空への情景



 アスラはいつも空を見上げてる。その背中の白い翼をはためかせて、そのうち天界に飛んでいくんだなんて言っている。

 ミーナはいつも空を睨んでる。その背中の黒い翼はミーナ自身によって毟られて、いつだってぼろぼろで痛々しい。

 私はそんな二人をいつも見ている。小さな翼を服の中に隠して、膝裏まで伸ばした黄金の髪を弄びながら。

 

 アスラとミーナと私は、天族の末裔。飛べない翼を持つ種族の、数少ない子ども達。私は知ってる。空を飛びたいって言ってるアスラが、本当はその立派な白い翼を疎んでること。私は知ってる。黒い不吉な翼を嫌うミーナが、本当は誰よりも空を飛びたいと思ってること。アスラとミーナは、私を知らない。私が翼を持ってることを知らない。この小さい翼が恥ずかしくて、二人に抱いてる劣等感。それだってきっと知らない。

 落ちぶれた天族の末裔は、誰だって、空を飛んで天界に行きたいと心のどこかで思ってる。大人達はいつからかその想いを隠してしまうけど、私達は隠しきれない。諦めきれない。

「なあ、この世界の端の端に、天界への道があるらしいんだ。行ってみないか?」

 アスラの言葉に、ミーナは冷たく答える。行かない、と。私は答えない。行きたいのか、わからない。

「何だよ、いいじゃねえか。行ってみようぜ! 天界に行けば、俺達だって飛べるようになるかもよ」

 アスラはいつだって、頑ななミーナと臆病な私を焚きつける。そして子どもだから、その提案を却下しきるだけの想いもなくて。・・・私達は旅に出ることになる。

 

 ――ねえアスラ。この旅はきっと、とても長いものになるよね。ねえ、ミーナ? 私達はきっと、空に憧れずにはいられないんだよ。

 

 私は久々に空を見た。変わらない毎日が、少し変化を見せ始めたから。




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