神か悪魔か



 その少女は、生まれつき耳が聴こえない。だからだろうか、私には聞こえない、その声が聴こえるらしい。

 その声は、いつも遠くの方からするという。木々の葉擦れのようにざわざわと、誰かを呼ぶように絶え間なく、少女に訴えかける。少女はただそれを聴くだけ。決して応えてはならないのだという。

 というのもその声は、神か悪魔の呼び声で、もし一言でも応えたら、どこかに連れ去られてしまうのだ。少女は声の誘惑に屈することなく、無事大人になった。そして、隣村に住むきこりの下へ嫁に行った。後日、男女の双子を生んだと風の噂に聞いた。

 

 ある日私は、その少女と出会った。天使のように愛らしい少年を一人、連れていた。少女の子どもだという。

 もう一人、女の子はどうしたのかと聞いた。すると少女は寂しげに笑い、神か悪魔に召されたと言った。




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