春は青き――
彼は、ませた子どもだった。十歳も年上の私に、まるで劇の一場面みたいに、こう告げて卒業していった。 ――また会いましょう。我が最愛の人。 あの日から十年と少しが過ぎ、あの時の私に追いついた彼は。 実は俺、今度父親になります! なんて、幸せそうに笑っている。 中学生三年の秋。あろうことか彼は、担任教師の私に「好きです」と告白してきた。勿論、私はそれを拒んだ。でも、彼はなかなか諦めてくれなかった。卒業の日が来るまで、私は結構大変な思いをした。 高校に行ってからは全く訪ねてこなくて、また会おうと言ったのに、再会したのは十年後の今日。同窓会。かつての教え子は皆、まあ立派な大人になってしまって、中には父母になった者、どころかシングルマザーまでいる始末。 三十も半ばに差し掛かって。私にはまだ、夫も子どももいない。出来る予定もない。このまま、年を取っていくのだろうか。かつての生徒にまで先を越されて、あの幸せそうな笑顔を羨ましく、憎らしく、誇らしく思いながら。 彼の一番は、元から私ではなかった。本当に大切にしたい人を、見つけたのだろう。その人と家庭を築いていくことを、決意したのだろう。ああ……大人になったんだね。皆、大人になっていくんだね。 ――おめでとうは笑顔で言えたから、よかった。彼が幸せになることは、やっぱり、嬉しい。願わくば、私の生徒達全員、いつまでもずっと、幸せに笑っていられるように。 家に帰る前に、途中のコンビニで水を買う。よく冷やされたそれが、火照った体を冷やしてくれた。 見上げた空に、星が一つ瞬いて。……一瞬だけ、滲んだ。
短編というより、何かの作品の一部みたいな。
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