降る雪 −シルフィラ−
ひらひらと花が落ちてきた。 「お、雪だなぁ」 ゆき? と反復したシルフィラに、お前は見たことなかったっけと呟いて、男はひとひら、手に受けた。受けると同時に、雪は水になって広がった。 「雪っていうんだ、シルフィラ。これは、雪っていうんだ。覚えとけ。お前は、雨を知ってるよな。霧も霜も知ってるよな。これはな、霧や霜より、雨よりずっと寒いと、空から降ってくる花なんだ」 男は何度も手をかざして、舞う雪を捕まえるかのように追いかける。けれどそれは、すぐ溶ける。体温が高いのだろうか。見せてやりたいのにな、雪の結晶、そう残念そうな男の手の平に残ることはない。 シルフィラは男と同じように、小さな手を空に向ける。ひとひらふたひら、舞い降りたそれは彼の手の平に溶けずに残った。それを見ていた男は薄く笑って、 「近くで見てみな。六弁の花だぜ」 シルフィラの目に、小さな花。雪の別名、六花に違わず白に輝く。見たこともない花に、シルフィラはもう片手でそっと触れる。すると、たちまちそれは消え去った。男が苦笑を浮かべつつ、言う。 「ダメだぜ。すぐ溶けちまうんだから」 手の平からなくなった花をしげしげと見つめて、でもわかった、きれいなお花だったよ。シルフィラは笑い、また空に手を伸ばす。だが男は彼の小さな手をとって、冷えてんぞ、とまだ雪を掴もうとする幼い手を包み込んだ。 子供の体温は大人より高いんじゃなかったか? そう不思議そうな男の手は、シルフィラの手よりずっと熱く、大きい。じゃあお父さんの方が子供なんだ、とふざけるシルフィラを抱き上げると、彼はきゃらきゃら笑う。その体は手の冷たさに反して、陽だまりのように温かい。 生意気言うなよ小僧が、とぎゅっと抱いて頬をすり寄せると、笑い声はまた大きく明るくなる。 同じ髪色目の色をした二人は・・・笑い声を降る雪に混ぜて、積もる雪の絨毯に足跡をつけながら歩いていく。 白に包まれ始める世界で、とても幸せそうに。
ネタバレですが、バレても困らない。
|