五章 “幻日” 12
何日もかけて旅してきた行程を戻るのだと考えれば、気が滅入ってもおかしくはないのに。コウは、そうは感じなかった。前途は明るい。そんな風に思えたのは、初めてのような気がする。 「へ〜、メシアちゃん、すごいのね!」 「うんっ! ボクは〜、すっごいんだよー?」 何を話しているのか、カーヤとメシアの会話も弾んでいる。 先刻、焚き木を集め食事を作っていた時。何の予告もなくメシアが現れ、カーヤに話しかけた。二人はそれから、ずっと楽しそうに語らっている。シルフィラはその二人を見て、温かく笑っている。コウは、そんな三人を見て、笑みを浮かべはしないものの、くつろいだ表情をしている。 ふと、シルフィラがこちらに目を向けた。焚き火の炎に照らされた頬はほんのりと色付いて、幸せそうな微笑をたたえるその表情は柔らかい。 「何だ?」 コウはその視線の中に含まれる何かに、小首を傾げつつ尋ねた。シルフィラは大きくはない声で、コウを見つめて微笑んだまま、 「俺達が出会ったのって、運命だったのかもしれないね」 そう言って、ふ、と視線を空へと放った。 頭上に星。暖かな光。 コウはつられるように雄大な夜空を仰ぎ見て、仰向けに寝転がった。静かに目を閉じる。口元には、小さな笑み。コウはうんともすんとも答えなかったが、心の中には、やけに温かなものを感じて、思う。ああ、そうかもしれない。 そうしてコウは、その淡い暖かさの中で、いつしか眠りに落ちていった・・・。 背に硬く冷たい感触。通り過ぎる切るような風。 コウは、ふっと目を開ける。 ――閉じ込められた空が見えた。空は、暮れかかった夕焼けだった。 「・・・こ、こは」 信じられない思いで、呟く。 ・・・視界の端に映る、灰色の壁と金属の扉。それはひどく、寒々しい。 手足がうまく動かないのに、視界だけはクリアで。ずいぶんリアルなその、夢。 「うそ・・・」 大嫌いな言葉。自然と口をついて、出てしまった。 ――暮れかかる空を閉じ込めるのは、鉄で出来た柵だった。 夢だ、と言い聞かせる。目をぎゅっとつむる。夢なら覚めろ、覚めてくれ。 ガチャリ、と金属の扉が開く音。硬質的なそれは、温かみのない、ものだった。 「・・・こ、うりょう?」 幼く聞こえるようなその発音。恐る恐る、目を開ける。 「・・・レオ」 間違いなく、それは、見知った姿。扉を開けて目の前に、黒髪、黒目の学ランを着た。 「何して・・・何してたんだよ! この、バカっ!!!」 いきなり飛びかかられて、殴り倒されて。痛みは、夢の覚醒をもたらさない。これは夢ではない。これは・・・現実だ。 「一ヶ月も! どこで! 何で・・・っ!」 殴られた痛みより、現実を見るほうが、もっと痛い。もっと恐かった。 ・・・戻ってきたのだと実感させるこの空気。 そこは、木崎光良が、生まれて、育った、その惑星。――地球に、他ならなかった。
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