fate and shade 〜嘘と幻〜

〈月〉   エピローグ





 ――そう、いつか、遠くない未来に。

 

 彼らが中学を卒業し、それぞれの道に進んでから、十年。今日は、同窓会だ。大人になった元子ども達が、酒など片手に、語らう。

 光良は、レオに会った。オトネに会った。クスハに会った。互いに育った顔を見合わせて、変わりない笑みを浮かべる。

「変わらないな・・・」

「変わっただろ、特に女子が」

「知らなかった? 女の子は、恋をすると綺麗になるんだよ」

「そうだね。・・・男の子は、恋をするとかっこよくなるよ」

 レオとクスハは、結婚した。だからクスハのことは、もう正確にはクスハとは呼べない。スズキと呼んでと言われたが、妙に気恥ずかしく思えて呼べず、男二人はクスハと呼び続けている。

 ・・・変わりゆくもの、変わらないもの。それでも、寄れば話は弾むもの。

 

 同窓会が終わり、二次会には出ず、彼らはヒビヤと合流した。ヒビヤは二学年下なので、同窓会に出ていては会えない。待ちあわせた場所にいたひょろっとした青年に、光良が声をかける。

「ヒビヤ」

「あ、光良先輩、真澄先輩!」

 ヒビヤは笑って手を振る。光良の後ろから顔を出したオトネが、

「私達もいるよ?」

 そう言えば、さらに笑みを深くする。

「市花先輩と楠葉先輩も! お久しぶりです」

「久しぶり、響夜君」

 そして、また会話が弾む。まるで、中学生の時に戻ったかのように、他愛ないことで、沢山。

「そういえばさ・・・」

 その途中、ふと、光良がクスハを見る。

「何?」

 クスハは大きな目を光良へ向ける。薄く化粧をして、髪を軽く染めて、雰囲気は違えど、その瞳に何ら変わりはない。

 光良は小さく首を傾げ、

「お前さ。俺に、何も訊かなかったよな。・・・レオとヒビヤが知っていることも、オトネが知っていることも。何一つとして」

 そう、言う。・・・異世界のこと。事件のこと。あの時、強引な方法でレオ、ヒビヤ、オトネの背を押した割に、クスハだけは何も知ろうとしなかった。

「・・・訊いてほしかった?」

 いたずらげに微笑むクスハに、皮肉げな笑みを返す。

「いや? レオとヒビヤとオトネだけで、十分だ。・・・ただ、不思議に思ったから」

 訊かないという選択の意味。クスハは、あのね、と光良をじっと見つめる。

「知らないって態度も、時には大切だと思うんだ、私」

「・・・知らないって態度、か?」

 さらに首を傾げる光良に、にっと笑みを見せる。

「うん、そうだよ。私、木崎君のこと、何も知らない。でも、それって何か、絶対知らなきゃいけないこと? ・・・今そこにいる木崎君だけで、十分なのに」

 すっと、光良に顔を近付ける。

「・・・でもね、知りたくないわけじゃ、なかったよ」

 仲間外れみたいで嫌だったよ、とクスハは暴露する。じゃあ今から話してやるさ、と光良は苦笑する。

 ――十年の月日を越えて。あの時の出来事と、想いを。

 クスハはやや不安げに、いいの? と尋ねる。聞いてくれるんだろ、と返した光良は、足を止める。ちょうど、目的地の中学の校門の前だ。全員、光良に倣う。光良は門の向こうにたたずむ校舎を見て、微笑む。

「・・・昔話を、しようか。嘘と幻から始まった、運命の話を」

 そう言って光良は、そっと目を閉じた。




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