fate and shade 〜嘘と幻〜

<風>   プロローグ





 わずかに、髪が揺れる。

 風はない。この髪が揺れたのは、大切な仲間がいるあの街を、肩越しに振り返ったから。

 二度と会わないわけではない。短い別れに、なると、思う。

 ・・・寂しさは抜けない。でも、もう、自分を偽る想いは持たない。だから、行く。

 探しに、旅へ。

 そう、決めた。

 

 まだ夜明け前の街道を歩き出す。

 ふと微笑。けれどその笑みに、儚いほどの美しさは、ない。端麗な容姿が浮かべるそれは、ふてぶてしいほどの、強さ。

 背で踊る髪は、光など当たらなくてもキラリと輝く、鈍金色。燃え落ちた灰を思わせる瞳は、けれど、まだ火種を残している。

 

 思えば、ずっとずっと、この旅の目的は一つだった。いつしか忘れかけてしまったそれだけど、焚き火の奥の小さな炎は、消えずに残っていた。

 それがまた、燃え始める。今、風を受け、日が昇る。

 新たな旅の、幕開けだった。




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