<風> 一章 “探しビト” 1
顔を真っ赤にしてうなだれる姿は一見泣きそうにも見えるが、そうでないことは明白だ。ぐしゃりと力いっぱいに握り締めたメモを片手に、カーヤトッニは身体ごとぷるぷると震わせていたから。間違いない。それは、怒りだ。 その怒りのはけ口になることが公然の事実であるランドール。冷や汗を流して一歩二歩と緩やかに後退しつつ、恨むからなシルフィラ・・・! 呪詛のように心の中で唱えるが、当の本人に届いているかどうかは定かではない。何しろ、女だったら十中八九の男がほれてしまうような整った容貌をした彼、相当に鈍いのだ。自分のことにも他人のことにも、優しいくせに、その気持ちには気付かない。カーヤトッニの怒りの理由を、きっと彼はよくわからない。 「・・・置いて。あたしを、あたしを置いて、一人で・・・こんな書置き残して! あたしが追いかけられないようなこと周到にして・・・それほど、それほど一人で行きたいの?」 震える声。怒りと悲しさが入り混じったその言葉に、ランドールはどう言うべきか悩んだ。悩み、悩んだすえ、何も言えず黙り込んだ。 カーヤトッニの言葉はまだ続く。 「絶対、絶対追いかけられないじゃない、こんなことされちゃ。きっと、書置きだけなら追いかけたよ。でも、この髪留め・・・。シルフィ、すごくすごく大切にしてる。“これと一緒に待ってて”って。本当に、本当にあたしにここで待っててってほしい、ってそういうことじゃないの・・・?」 悲痛な言葉と裏腹に、カーヤの表情はどこか誇らしげでもあった。 「行けないよ。一緒に行きたくても、行けないよ。待ってれば帰ってくるなら・・・ここに、あたしとランのところに帰ってくるんなら、ここに、いなくちゃ! シルフィが一人で探しに行っちゃうなんて、悲しいけど・・・でも、“待ってて”って言ってくれるなら、待ってないと。シルフィはきっと、シンパスを見つけてきてくれる。そうだよね? ラン」 ランドールは、慌てて頷いた。実際には、シンパスの情報をただの一度も手に入れたことのない彼には、それが生半可な願いではないことがわかっていたけれど・・・。一途なまでのカーヤトッニの思いに、望みの道が開けた気がして。 そうだな、と。応えた自分の声が泣き笑いのようになったのを、ランドールは感じた。
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