<保護者七題> 3.自分の心配だけしてろ
数日アリアールと過ごしたラステールは、ある朝ふと気付いた。・・・アリアールは、優しいひとだと。 ラステールの父親でありアリアールの相棒であるゲイリード、彼がいなくともアリアールは小さな仕事をこまごまと受け生活している。その仕事の合間に、ラステールを西区の学校へ送り迎えする。朝晩は勿論昼の弁当までちゃんと用意をする。椅子と簡易ベッドを買って、机も置いた。何より、ラステールを一人にしない。父親に捨てられたのではと心細く思っているのをしっかり察して、大げさなゲイリードの悪口などで場を和ませようとする。 アリアールは、口が悪く、態度も悪いが、優しい。・・・とても、優しい。 ラステールはそれに、気付いてしまった。 「アリアールさ、ん・・・怪我したんですか?!」 その日、アリアールは少し遅めに迎えに来た。右腕と左足首に真白い包帯が巻かれているのを見たラステールは叫んで駆け寄った。 「どうなさったんですか! ひどいんですか?」 ひょこひょこと足を引きずりながら、大したことねえよ、と適当にいなす。その目が泳いでいるのを見たラステールは咄嗟に、何か隠しているんだと思う。どうしたんですか、と強く問うも、目を合わせることなく、答えもせず。 「・・・アリアールさん!」 何か言いにくいことがあった・・・いや、されたのかもしれない。憶測はついても、アリアールは何も話してくれようとしない。 「アリアールさん、そ」 「ラステール、大丈夫だから。・・・ちょっと、な」 あまり極端に心配するラステールに、アリアールは苦笑を見せた。照れたような、とても優しい顔。追及を逃れて、紛らわせようとしている。それがわかっていても、そんな顔をされて「大丈夫」と言われたら、言葉は弱く消えてしまった。 その日のうちに、ラステールは一人の男と初対面の挨拶を交わした。人付き合いの少ないアリアールがゲイリードの次くらいに親しい態度をとるその男は、傭兵仲間のディレイ。たわいもない話をして、それとなくラステールの世話手伝いを頼む。ディレイは詳しく尋ねずに、お安い御用だと軽く請け負った。 無礼講だとラステールは酒を飲まされ、酔って潰れた・・・ふりをした。実はラステール、父親に付き合って数年前からよく酒を飲んでいる。そして発覚したのだが、ざるだった母親の血筋が強いらしく、なかなか酒に酔わないのだ。 潰れたふりをしたのは、わざとだ。きっとディレイには詳しい話をするはずだ。案の定、ディレイは諸々の説明を求め、アリアールはそれに答える。怪我のことも、訊いていた。 「不意打ち食らった。油断してたからな」 「そりゃ、まだ十代の若造がこれだけ態度大きければ、わからないでもないけどよ」 「しょうがないだろ。舐められたら終わりだ。それに今は、俺がやられたら、こいつもやられる。ゲイルの息子なんだから」 「まあ、な。・・・アリ、こいつ、ずっと俺が預かってもいいんだぜ。大丈夫か?」 「平気だって。相棒の息子くらい、世話見れなきゃ恥ずかしいだろ?」 「でもお前、こいつと七歳しか違わねえだろ。俺からすりゃ、お前だってまだ子どもだ」 「俺はもう子どもじゃねえよ」 そんな、会話。頭に流れ込んでくるその内容に、ラステールは机に突っ伏したまま目を見開いた。 知らなかった、もっとずっと年上だと思っていた。・・・アリアールは、まだ誰かに守られていていいくらいの年齢だったのだ。 大丈夫だと、心配するなと、強がりに見せることなく微笑むアリアールは、なるほど確かに強いのだろう。 けれどそれは、強くならざるを得なくて強くなった、背伸びの力だ。
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