<友情七題> 1.線香くらいは上げてやる
ハナとキキは幼馴染だ。家は隣同士で、ずっと同じ学校に通っている。 この東区には商人が多く、両家とも商人ギルドに所属する商人の家庭だ。特にハナの家はこの国の外に通じていて、よくよく珍しいものを仕入れる。 この日も、そんな商品の一つを、ハナは学校に持ってきていた。 「誕生日おめでと、キキ」 ハナはそう言って、キキの前で“センコウ”というものを焚いた。ふわりと漂う異国の香りに、キキは一瞬絶句した後、 「今度は、何だよ?」 呆れて訊く。 昼である。学食には学生があふれ、席はどんどん埋まっていく。向かい合うハナとキキの前には今日のおすすめランチ。紙パックの紅茶と苺牛乳。そして、食事の匂いと混じり合う、それ。 違和感がある。素晴らしい違和感がある。キキは深いため息をつき、いつも通りここに至った経緯を尋ねる。 「まずは・・・これ何だ、ハナ」 センコウとやらを指差す。ハナはその香りを手で仰いで確かめながら、 「ずっと東の国にある、アロマの一種? らしいよ。変わった匂い・・・だよね?」 何と言えばいいのか・・・渋いとか、何となく年寄りくさいとか、そんな感じだ。 「花の香りみたいなのが、やっぱりいいなぁ・・・うーん」 眉をしかめて微妙な顔をするハナ。キキは、で? と続きを促す。 「? 何が?」 「何が、じゃねえよ。何で、このセンコウとやらに火をつけて、誕生日おめでとうなんだよ。第一、俺の誕生日は、もう五日も前に過ぎたし」 ハナの奇行は今に始まったことではないが、それに一々付き合うキキもいいかげんひとが好い。 「細かいなぁ、まだ怒ってるの?」 「怒ってねえよ、呆れてんだよ」 「あ、やっぱり怒ってる。・・・別に、毎年誕生日なんて祝ってあげなくても、いいでしょ?」 ハナに話が通じない。キキはこれ見よがしにため息ついて、好きに言ってろと押し黙る。しばらく一人でごちゃごちゃ言っていたハナは、キキが無反応なのに気付くと、 「・・・ちょっと、キキ?」 不満げに、そしてちょっと不安げに、キキを見る。それで結局、キキはハナを無視し続けられなくなる。 「・・・何だよ」 睨みつけるように答えれば、ハナはぷうっと頬を膨らませる。 「・・・もう! ちょっと数日遅れたけど、ちゃんと誕生日、覚えてたよ! そんな怒らないでよ、ごめんね?」 はいはいわかったと適当に流したキキは、話題を戻す。 「・・・で? このセンコウと誕生日、どう関係あるって?」 ええっとね、とハナはようやく説明する。 「東の国では、誰かの誕生日にセンコウを上げて、ナームーって言って祈るんだってさ」 意味がわからない。お陰で不味そうに昼飯を食べることになってしまったキキに向け、ハナは両手の平を合わせ、 「キキ様ナームー」 祈る。祈られた当人はというと、もう深いため息つく以外、何も思い浮かばないのだった。
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