<主従七題> 3.その人に手を出したこと、後悔させてやる
街を歩いていて、通りがかった路地で喧嘩をしている男達がいた。はっと気付いて庇った時には遅かった。 「った!」 飛んできた角材をもろに頭で受け、ヘリオットが尻もちをつく。 「ヘリオット様っ!」 「大丈夫ですか! お怪我は・・・」 言いかけ、シーは顔色を青ざめさせる。 「血、が」 「ヘリオット様っ!」 「ああ、平気だよ、大丈夫。全く、何だい・・・」 意識はしっかりしているようで、ヘリオットは傷口を片手で押さえて顔をしかめる。角材で切れた傷から流れる血が顔に流れ、襟元にじわじわ広がるのを見て、てきぱきとマウが止血をする。こんなこともあろうかと、応急セットはいつも鞄に持ち歩いているのだ。 「ヘリオット様、傷はそれほど深くないようです。すぐに屋敷に帰り、処置をしましょう。痕が残っては困りますから」 「ああ、そうしようか。・・・シー、大丈夫かい?」 主人が怪我してもあまり慌てていないマウと違い、シーは真っ青になって硬直してしまっている。ヘリオットが声をかければ、ふと泣きそうな顔になる。そして、 「・・・マウ。ヘリオット様を連れて、先に帰ってくれる?」 自らの武器である棒を手に、すっと立ち上がる。 「・・・シー?」 その視線の先に、いまだこちらの様子に気付かず喧嘩を続ける男達。何をする気だとヘリオットが問えば、場にそぐわないほど鮮やかな笑顔で、シーは振り返る。 「・・・主人を傷付けた者を、護衛が許すと思いますか?」 ――本気の怒りをその笑顔に見て、ヘリオットは体を強張らせる。マウと違い、温厚で争い事を嫌うシーは、まず怒ることはない。 「シー、私は別に、平気だよ。何もしなくていい、やめなさい」 「マウ、ヘリオット様をお願いするよ。僕もすぐに帰るから」 「シー! やめなさい!」 珍しく攻撃的になっているシーに、これも珍しく鋭く命ずる。が、いつもならそれで多少大人しくなるシーが、全く怯まない。 「その命令は聞けません」 どころか、拒否をした。唖然とするヘリオットを無視して、わかったが無茶はするなとマウが頷く。大丈夫とシーは頷き返す。マウに肩を支えられ屋敷への道を歩き始めるにあたってようやく、ヘリオットは言葉を取り戻す。 「マウ! どうしてっ!」 ヘリオットの怒りと戸惑いの声も、マウには右から左だ。心配げに背後を見やるヘリオットに、 「ご心配なさらずとも、あいつは強いですよ。引き際も知っています」 一言そう告げ、それから一切口を開かず、ヘリオットを屋敷に連れて戻った。 しばらくして帰ってきたシーは、掠り傷を数か所負ったのみだった。まず命令違反を謝り、力ずくで喧嘩を仲裁してきたと報告した。 後日、シーに打ちのめされた男達が屋敷にやってきて、殺さないでくれと土下座をした。全員ぼろぼろの傷だらけで、どこかしら骨を折っているようだった。 勿論ヘリオットはその謝罪を受け入れ、なおかつよほど怖い目にあったらしい彼らに同情した。 ――普段大人しい者ほど、怒らせると怖かったりするものだ。
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