<主従七題> 2.あなたのことは全部知っています
その日、逃走に失敗して机にかじりついていたヘリオットは、目の前で自分を見張るマウとシーをじと目で睨みあげ、 「結局二人とも、私のことなんてどうでもいいんだね」 いきなりそう言う。思いがけない言葉に唖然とする二人に、ヘリオットはさらに、 「私のことなんて、逃走癖のある困った主人、くらいにしか思ってないのだろう?」 そう愚痴る。マウとシーは目を見合わせて、苦笑する。お言葉ですけど、と揃って優しい目を向ける。 「俺達は、誰よりも貴方のことを思っているつもりですよ」 確かに困った主人ですけど、とマウは前置き、 「俺は、貴方とシー以外の誰かのことは、正直どうでもいいんです。困ったところ、悪いところ、全部含めて、俺のヘリオット様です」 さらにシーが、僕は、と照れ臭そうに、 「マウみたいに割り切れないですけど、ヘリオット様とマウのことは、本当に大好きです。まだまだ未熟ですけど、いつか二人のような大人になりたいと、そう思います」 マウとシーは、ヘリオット様のことは、良いところも悪いところも何でも知っているんですよ、とにこり微笑む。 二人の、飾り一つない言葉に、ヘリオットは喜びと、一抹の寂しさを感じる。 「・・・私だって、二人が大切だよ。大好きだ」 近寄って二人を腕の中に閉じ込める。これほどぎゅっと抱いていても、通じない想いで胸が切ない。 ――マウの想いは陶酔、シーの想いは尊敬。ヘリオットが本当に欲しいのは、そんなものではない。 ・・・ただ、家族のような愛情さえあれば、十分なのに、と。ヘリオットはそう思う。
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