六話 時の国の彼ら
ここ数日、学園内で行方不明者が多発している。性別、学部、学年全てに共通点はない。 大事件だと、学園内はざわめいていた。決して一人にならないようにと学校側から宣言が出され、午後の授業や森への実習は全てカットされた。まだ休校にはなっていないが、この事件が解決しない限り、いずれはそうなる運命だろう。 そしてここに集まる四人組みは、今額を寄せ合って考える。 「・・・クーもいなくなったんだ。協力してくれ」 普段頼み事などまずしない、エリオのこの一言によって。 「十中八九、学園内に犯人がいると思うんだよね・・・ぼくは」 「同感だ。生徒か、教師か・・・まあ、ほぼ間違いなく生徒だと思うがな」 「だが、問題はある。一体どうやって、これだけの人数をさらった? しかも、何の目的で?」 「そんなこと犯人しか知らないに決まってるだろう。まず問題にすべきは“誰が”だ。順番を間違えるな、エスクード」 「・・・んだと、手前」 いつどんな場合であろうと、エリオとエスクードの不仲は直らない。すさまじい目付きでにらみ合う二人をクラウンがなだめ、イプサム一人が別次元で思案中だ。 「ここ四日で、十一人。一日三人近いペースで、その行方をくらませている。人種は様々、共通点は見受けられない。いなくなった場所、時間もばらばら。・・・けれど全て学園内での犯行。そして、被害者はその時一人だった」 イプサムの考えをまとめようとする呟きに、喧嘩していた二人も、なだめていた一人も、ぴたっと動きを止める。 そのまましんとしてしまった部屋。しばらくして、クラウンが口を開く。 「・・・イプサム。何かわかった?」 イプサムは考え込んでうつむけていた顔を、すっと上げた。 「・・・わからない」 結局答えは出ない。はあっと一同ため息をついた。 次の日の薬学部三年全体授業中、妙に静かに時が進む。多くの生徒が一同に会してがやがやとうるさいのが常なのに、今日は教師の声が響くほどに静かだ。 「・・・」 授業が半分もいかない内に、パタンと音がして、教科書が閉じられた。黄金のごとく輝く髪を心なしか曇らせ、眼鏡の奥の空色をした瞳に憂いを込めながら、服飾学部に所属する教師である彼女、セレナは振り向く。生徒達のほぼ全員が、その様子に気付いて顔を上げた。ペンを走らせる音も止まり、しん・・・と静まり返る室内。梢がさやぎ鳥がさえずる、そんなわずかな音が響くほどだ。 「・・・いいわ、今日はここまで。あなた達、聞きたいこと何でも聞きなさい」 すっと数人の手が上がる。が、予想するまでもなく、それは授業についての質問ではない。手を上げた中の幾人かは友人が行方不明になった者であり、また数人はその他大勢の中でも特に正義感あふれる者達である。そして、誰からともなく順序を定め、かぶることなく質問し始める。 「学園側はどう考えているのですか」 「私達に事件の概要を詳しく教えてください」 「なんで学園は動かないんですか? こんなに沢山の生徒がいなくなってるのに」 「犯人に目星はついてるんですか」 「犯人は・・・生徒なんですか?」 それからまだいくつか続く、不満と不安を前面に表した質問の数々。その波が止まっても、セレナ教師は答えない。しばらく沈黙を貫いた後、ただ一言、わからないわと告げた。 「・・・わからないってどういうことですか!」 どこからともなく叫びが上がる。それに同調するように、先ほど発言した者達より多くの声が、そうだそうだと同意する。 答えのでない問答。エリオは一つため息をつくと、授業道具を片付けて立ち上がった。 「エリォ?」 レクサスがいぶかしんで彼を呼ぶ。エリオは底冷えするほど冷たい目をして一言、 「馬鹿馬鹿しい」 吐き捨てて出て行ってしまった。レクサスが後を追って教室を出た時には、すでにその姿は消えていた。 そして・・・エリオはその足で中庭に向かっていた。そこには既に先客がいて、彼らはやっぱりという顔をしてやってきたエリオを見ていた。 「中止?」 「中断というのが正しいか」 いくら尋ねたって詮のないことを・・・全く馬鹿馬鹿しい。毒づくエリオをなだめるのはクラウンだけだ。エスクードとイプサムは、どうやらエリオと同じ思いらしい。 「まあ、落ち着いて、エリー。何かいい案思いついた?」 「いや・・・。そっちはどうだ?」 クラウンは肩をすくめる。エスクードはふんと鼻を鳴らす。イプサムは、何もしない。 「駄目か」 半ば予想していたことなので、エリオはそれほど残念がらなかった。・・・実際、思いつかなかったといったが、一つだけ案があったのだ。ただそれは、危険が伴う。クラウン辺りが真っ先に思いつきそうなことなのだが、彼がそれを言わないということは、勝機が全くわからない証拠だろう。 言うべきか言わざるべきか、エリオは考える。 「・・・エリオもクラウンも言わないのならば、俺が言おう」 その状態を破った者がいる。イプサムだ。 「イプサム?」 「迷惑をかける、危険だから。そんな理由で遠慮するのはお前達らしくない」 きっぱりと話すイプサムの言葉に、彼が次に何を言うかは簡単に予測できた。エリオとクラウンは互いに見やって、気まずそうに目を背けた。 「囮を作ればいい」 危険だ危険だと騒ぐばかりで解決しないよりは、とイプサムは一つ頷いたのだった。 夕刻・・・普段ならば、生徒が寮や家に帰るには早い時間、しかし今この時は誰もいない学園の廊下を、一人の少年が歩いている。 綻び始めた花のごとき黄色から茜色へと、空は暮れていく。 少年は教室の一つに入って、何やら探し物をしている。最初は自分のであろう机を探っていたのに、見つからないのか他の机や教卓の中も探し始める。 しばらくして、見つからないなと呟いた少年は教室を出・・・ようとした。 しかし。 「何、あれ・・・?」 とても信じられないようなものを見て、歩みを止めた。 長く長く続く廊下の向こうに、明るい陽射しが見える。まるで昼のごときその明るさに、一面の緑が照らされている。 「何、あれ・・・」 少年――クラウンは迷った。その明かりの下に突き進むべきか。それとも、逃げるべきか。そう考える間にも陽射しは侵食するように拡大していて、そして・・・クラウンは気付いていなかったが、背後や左右からも、その“世界”は迫っていた。 「クラウン! 逃げろっ!!!」 隠れていたエリオが叫んだ時には、もう遅い。声に反応して振り返ったクラウンの目には、すでに一面の緑が映りこんでいた。 ――囲まれた。その事実に気付いたクラウンは、姿はなくとも駆け寄ってくる足音で、緑の向こうにエリオが近づいていることがわかり、叫んだ。 「エリオっ、来ちゃダ」 叫びは、途中で切れた。瞬きを一つした後のエリオの眼前にはもう何もなく・・・カチリと何かが噛み合うような音を残して、クラウンの姿はかき消えていた。 まるで、神隠しのように。 同時刻、こちらは中庭で・・・。 人を待っているのか、時計とにらめっこをしながらイラついた様子の彼が、噴水の前を行ったり来たりしている。 針がまもなく、頂点を指す。その時彼は、何か聞こえた気がして校舎の方を振り返った。 「・・・クラウン?」 異常は見受けられなかった。けれど何故か嫌な予感に襲われた彼、エスクードは、隠れていたイプサムを呼んだ。 「イプサム。さっき何か聞こえたか? ・・・イプサム?」 ところが、返事がない。おかしいと思ったエスクード、イプサムが潜んでいる茂みをかき分けた。 「イプサム。おい、イプサム? 作戦は一旦中止だ。どこにいる?」 返事は変わらず、ない。 嫌な予感がひしひしと、足から這い上ってくる。エスクードは大声でイプサムを呼び、茂みをがさがさとかき分けて、そして、 「・・・な」 見てしまった。 眠り忘れた太陽が、そこだけぽっかりと浮かんでいるように。 点のような光があった。光は瞬く間に広がり、目をぎゅっと閉じてもまぶたの裏に突き刺さるほどの明かりとなり、次に目を開いた時には・・・。 「・・・っな!」 そこは、見知った場所だった。 ――そしてこの日、また三人の生徒が姿を消した。 「エリォ、エリォ! 落ち着けやっ、あんさん一人突っ走っても、また犠牲者が増えるだけやろ?!!」 つかんだ細っこい腕の、どこにそんな力があるのだろうか。止めるつもりが引っ張られながら、レクサスは必死の思いで叫ぶ。 「エリォ、学園側も動き出してんねん! お前が焦らんといても、解決するんは時間の問題やっ! だから、ちっとは冷静になりっ!」 視線だけを後ろに向けて、エリオは冷たい眼差しでレクサスを射抜く。 「・・・学園は生徒を守る。だから、犯人は簡単には挙がらない。このまま待ってたらいつになるか!」 レクサスは目を丸くして、信じられない気持ちで彼に問う。 「・・・生徒の犯行だと思ってんかいな!」 「十中八九」 答えるエリオの目にある種の確信が読み取れて、レクサスは説得を諦めてため息ついた。 「なんのアテもなくただ突っ走っとんのとはちゃうんか・・・。しゃあない、わいはついてって、あんさんのムチャを止める係になりましょ」 エリオが確信するのは、それだけの要素があったからという表れ。けれど・・・。 (こんな風に怒っちょる時、エリォはムチャしまくりなんやもん) はっきり言って止める自信がないレクサスは、人気のない校内を堂々と突き進んでいくエリオの背を、非常に不安そうに見つめるのだった。 目を開けたエスクードは、驚きのあまり息を呑んだ。 「ここは・・・」 信じられないと首を振る。光に飲まれて、彼は自分が失敗したことを悟った。自分もまた神隠しの被害者になると予想した。けれどそこは、 「学園・・・」 見慣れた、学園の廊下。吹き込んでくる夜風は、わずかな花の香り。 「――いや。学園・・・なのか?」 どこか感じる違和感。学園は、ほんのりと明るく、静かで、涼やかで・・・清浄だった。 違う、と直感が判断する。ここは、学園とは似て非なるものだ、と。 「イプサム、クラウン・・・エリオ。いるのか? おい、誰か、いるのか?!」 叫ぶ。廊下を走る。目の前に食堂に扉があり、勢い良く開け放つ。そして、 「エスクードくん・・・!」 思わぬ人物と、再会する。 クラウンが消えた時感じた、じりじりと中から身を焦がされるような覚えのある不快感。そして、かちりと、何かの噛み合う音。何が起きているのか、エリオはもうほとんど見当をつけていた。 (噛み合う音。呪い。術者は媒体を持ってる。媒体を壊して、術者を締め上げる) 「・・・覚悟しろよ」 「エリォ?」 「レクサス、お前は来るな」 「え、ちょい待ちや!」 追いかけてくるレクサスを振り切るように、エリオは走る。 「・・・じゃあ、エスクードくんは、これが生徒の仕業だと思ってるの?」 「普通に考えて、そうだろうな」 「うん、ぼくもそう思うよ」 「・・・俺もだ」 私も、俺もだと、他に数人声を上げる。 ・・・エスクード、クラウン、イプサム、クー。そして他にも数人、行方不明になった者達全員が、食堂に集まっていた。いつもは混んでいる食堂に、たった十四人。されど、十四人。十四人もの生徒が、この“学園”に閉じ込められているのだ。 「誰も、見当つかないのか? こういうことしそうな奴とか、なんか・・・」 「ごめんなさい・・・それはあなた達が来る前にも話していたけれど、誰も思いつかなかったのよ」 この場で唯一の六年生である女性が代表して言う。エスクードは黙り込んだ。それに従って全員が口を閉ざし、重苦しい沈黙が下りる。 (・・・あの時、何か、音がした) 言葉が途切れて初めて、クラウンに考えるひまができた。音。エリオの駆けつける足音ではない。声でもない。もっと硬質な、機械的で規則的な。 (・・・歯車?) 歯車の噛み合う音。・・・時計。 クラウンは窓辺に近寄り、時計塔を見る。針は止まってしまっていた。 「クラウン、どうした?」 「・・・時計塔、誰か行ってみた?」 訪ねて振り返ると、皆きょとんとした顔をしている。 「・・・行ってないね?」 確認としてもう一度訊けば、全員首を横に振った。 「・・・クラウン?」 横に並んで時計塔を見た彼らはその止まっている針を見て、それからクラウンを見る。 「時計塔に何かあるのか?」 歯車の噛み合う音を聞いたことを言うと、全員が顔を見合せて、行ってみようという話になった。 ぞろぞろと連れだって歩く中、ふと、クラウン、エスクード、イプサムの脳裏に、一人の人物が浮かび上がる。 「・・・そういや、あいつ、いないな」 「エリオは・・・あの音、気付いたのかな」 ただ一人、ここにいない人物。そのことにほっとすると同時に、非常に不安になる。 「無茶を、しなければいいが・・・」 その願いは残念ながら、叶わない予感がした。 時計塔は静まり返っている。遠くにレクサスの声を聞きながら、エリオは息を切らして上へ、上へと階段を上る。呪いの存在を感じる。間違いなく、ここにある。忌々しいと舌打ちする。・・・呪いなんてものに頼って何かを成す人間は一回死んでこいと、引導渡して突き落としてやりたくなる。 階段の最後の一段を上り機関部へ続く扉の鍵に酸をかけ、蹴破る。中にいた人間が一人、驚いた顔して振り向いた。光に透けるような薄い金色の髪、蜂蜜のような目、色白で小柄な体つきの少年。 「お前、か・・・!」 「だ、誰っ?」 息せき切らせたエリオの登場に慌てた少年は、後ずさってエリオと距離をとる。その距離をずんずんと詰めながら、エリオはすごむ。 「おい、神隠し、お前の・・・仕業だろ。解け!」 言いながら媒体を探す。呪いを感じる場所は、二ヶ所。一つはこの時計塔の時計を動かす、いちばん要の歯車に。もう一つは少年の懐に。 「い、いやだ・・・来ないで!」 少年はその懐の媒体・・・懐中時計を取り出して、エリオに向けた。途端、どこかに吸い込まれるような強烈な感覚。そして、叫び声。 『エリー!』 『馬鹿、逃げろっ!』 呪いの世界に捕らわれかけている。エリオは、反射的に閉じていた目をかっと開いて、逆光で影だけになっている少年を睨みつけ、怒鳴った。 「ふざ、けんなっ!」 それだけで呪いは霧散する。何だてんで弱い、と拍子抜けする。しかも、懐中時計は呪いを弾かれた衝撃で壊れたようだ。たった一撃だ。こんなお粗末な呪いでクーやクラウン達が捕まって、学園の秩序が乱れた。 (ふざけんなよ) エリオはすっと目を据わらせて、慌てふためく少年に接近し、襟首掴んで持ち上げた。自分より小柄とはいえ、その細腕でどうやったらひと一人吊り上げられるのか。ようやっと追いついたレクサスはちょうどその瞬間を目撃して、酸で腐食した扉の前で止まった。 「クズが。・・・一回死ね」 エリオはそう吐き捨てて、少年の体を要の歯車にぶん投げた。 「エリォっ!」 さあっと顔色を青くしたレクサスが走る。――ここは、塔の上。階段は塔の壁に沿って螺旋状にあって、歯車は機関部の床より外にある。そして、機関部の床の下に続くのは、階下までの、ノンストップの急降下。 人の丈ほどもある巨大な歯車にすごい勢いでぶつかった少年は、声にならない叫び声を上げて、重力に従っていく。レクサスが手を伸ばす。届かない。 (ああ、どないしよ) レクサスは、エリオが手を下し、自分が救い損ねた命の行方を、手を伸ばした格好のまま見守るしかできなかった。 ・・・その横をさっと通り抜ける影二つ。一つは少年を追ってためらいなく機関部の外に身を投げ出し、少年の足をぎりぎり掴む。もう一人がその足を掴み、片手に二人分の体重を、もう片手で柵に掴まり、そのまま耐える。 「・・・手伝ってくれ!」 そんな一瞬の出来事に呆然としていたレクサスは、柵を掴む手に力を込める生徒の絞り出すような声に、慌てて手を貸す。ほどなく引き上げられた。 「ああ、びっくりしよった、ほんまに・・・」 「ぼくもびっくりした・・・」 「・・・無事で良かった」 「あ、うん。イーちゃん、ありがとね。掴んでくれなかったら、ぼくも落ちてた」 気を失った少年以外の三人、レクサス、クラウン、イプサムは、柵から下を覗き込む。暗く深い、大きな空洞。引っかかるような場所は一つもなく、落ちたら・・・間違いなく死んでいた。 (ほんに、しゃれにならん) レクサスは冷や汗を拭って、エリオを振り返る。するとそこには物凄い殺気を出して睨みあうエリオと明るい茶毛の生徒がいた。その間に散る火花が、エリオの体からぱちぱちと静電気を発している。 「はー・・・あれ、どんな現象やろ」 「すごいね・・・光ってる。どういうことかな?」 「・・・いや、二人とも。あれは不自然だろう」 言われてみればもっともである。 向かい合っているエスクードも、二人からやや離れたところでおろおろしているクー達も、エリオの様子がおかしいことに困惑する。 体中からぱちぱちと、電気が散る。色を変える髪は、今は蒼黒一色に染まっている。エリオ一人が異常に気付かない。思わず伸ばしたエスクードの手が触れるか触れないか、バヂっとすごい音がして、感電したかのようにエリオはびくんとのけぞって膝をついた。 「ちょ、ちょっと!」 どうしたの! と三人は駆けつける。他の者達もまたエリオの下に近付き、けれどどうしたらいいのかわからず、やはりおろおろする。クーはエスクードの手を引っ張って二歩ほど後ろに下がらせたが、それ以上に何をしたらいいかはわからないようだった。 「エリオ・・・無事か?」 イプサムの言葉に、エリオは痛そうに顔をしかめつつ、何事もなかったかのようにすっくと立ち上がる。 「ああ・・・平気だ」 エスクードの目を見て、言った。ほっと息をつく一同を代表して、クラウンが苦笑する。 「ああもう、無事で良かった。・・・無茶しないでよ、エリー」 エリオは謝罪も感謝もしない。ただクラウンの目を見返しただけだった。 「・・・こいつ、犯人でいいんだよな」 被害者の男子の一人が輪から外れて、倒れ伏した少年を見下ろす。その言葉に頷いたエリオは、とても冷たい目で気絶した少年を一瞥する。本当に滅多にないほど冷たい、憎悪すら感じるような視線だった。 「・・・エリオ?」 思わず名を呼んだクーの手を取って、エリオは歩き出す。 「・・・いつまでもここにいてもしょうがない。そいつの口と手足を縛って、誰か見張っててくれ。教師を呼んでくる」 ぼくも行くよとクラウンが追いかける。少年にはすぐに猿轡がされ、女子のしているスカーフで手足を縛られた。 扉をくぐり階段を降りていくエリオの髪は、もういつものように色を変えて揺れていた。 失踪者は全員無事で戻り、神隠し事件は解決した。後日、事件のあらましが教師によって語られた。 犯人は学園の生徒であり、責任をとって退学した。犯人は時の世界に興味を持ち、誰も年を取ることのない、そしていつまでも平和な世界を、創ろうとした。その結果、大元の時計塔と中継点になる懐中時計をつないで、時計塔を中心として学園全体の時を止め、その時を固定分離させるという呪いをかけるまでに至った。その呪いは破壊され返されたために、犯人はまだダメージから回復していない、という内容だった。 勝手をしたエリオにお咎めはなしだった。むしろ、担任はその行為を褒めた。君は適任だった、そんな言葉で褒めた。 「ねえ、エス。・・・エリオは何か、隠してるよね」 ある夜。まだエリオの帰らない室内で三人顔を突き合わせる。クラウンの問いに二人は大きく頷いたが、いかんせん、何を隠しているのかは、わからなかった。エリオ本人に聞いても答えないだろうことは百も承知で、ただ、何か隠し事をしているという事実だけが、彼らの中にしこりのように残った。
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