一章 “変化の風” 2
この森の中に、人がいたようだ。 しばらくそうやって愚痴りながら歩いていると、少年はそれほど離れていない場所から人の声を聞いた。――何か言っている。というより、どなっている。 「・・・?」 聞こえる声は一つなのに何に向かってどなっているのか。そう考えて、少年は可能性の一つに思い当たる。 「襲われてるのか?」 そして駆け出す。しばらくして、少年は人間の姿を確認した。同時に、その前に立ちふさがる三体の獣の姿も確認できた。人間は、声からすると男のようだ。少年はそれを確かめると、手近な木に身を隠して、成り行きを見守った。――彼には武器がない。今出て行っても邪魔になるだけ。加勢にもならない。 「ええい、しつこい! もう、手加減なんかしないんだからな! ――我が求めしものの姿よ、成して見せよ! 火の槍!!」 突然、少年の覗き見ていた方向から熱風が吹きつけてきた。その風の中に、獣の叫び声が長く響いた。――それはまぎれもなく人間がいたところで。 「?! なんだ・・・?」 少年は驚いて、固まった。木の陰から出て、まず見たのは一面の炎だったから。 「う、うわ・・・森林大火災!」 ど、どうすれば・・・? と混乱しそうになる思考をどうにか引き止めて、少年は人間の存在を思い出す。そう、あの炎の中には、人間が。獣に襲われていた人間が、いるはず。 「最悪・・・」 少年は高く燃え上がる炎に向かって飛び込んでいった。
|