一章 “変化の風” 3
軽い頭の痛み。それは常のことであった。 ――ああ、また制御失敗した? ということはこのままでいればまず間違いなく火の海に飲み込まれて・・・そしてすぐに真っ黒こげの人間の丸焼きが一丁、出来上がるだろう。そんなことを考えて、慌てて目を開けた。 まず、暗かった。すでに夜。夕日はとっくに落ちた後なのだろう、空の中天に煌々と光る三日月の姿。そしてそれに寄り添うように輝く、大きな紅月の姿。 身体を動かそうとすると、頭がズキっと痛んで思わずうめいた。 「あ、起きた?」 突然、そう声をかけられた。驚いて頭だけをそちらに向けると、そこではパチパチと、さっき自分が作り出した炎より断然暖かな炎が燃えていた。まあ、一言で言えば焚き火だ。そしてその火の横に、少年が一人、座っている。炎に照らされて見える顔立ちが薄く微笑んでいる。髪はなんてことのないくすんだ金色だったが、その瞳は炎をとりいれて燃え立つかのような、珍しい黒檀の色をしていた。 「誰だ・・・?」 そう疑問をあげ、すぐに思い直す。自分が制御に成功しそこなった炎を消したのは、間違いなくその少年なのだろう。これでは失礼だ。 「あ、いや・・・俺はシルフィラというんだが。あんたは?」 少年は別に気にした様子もなく、手に持った焚き木を炎に投げ入れて答えた。 「俺は、木崎光良。・・・あんたの名前からして、ここ、日本じゃなさそうだな? 一体ここはどこなんだ?」 はて、おかしなことを聞くものだ・・・とシルフィラは思った。 「ここはノジィリの最西端にある森で――確か迷いの森とも呼ばれていたが、まさか知らずに入ったのか? こんな人気もなければ賞金かけられた魔物もいない、ただだだっぴろいだけの森に。わざわざ」 少年は明らかに動揺している。そういえば、耳に慣れない音を持った名前だったが、遠くから来た冒険者なのだろうか?もしくは商人?らしくないが。 「ち、ちょっと待ってくれよ? 何“のじーり”って言った? 今」 「ああ、言ったが・・・」 シルフィラは、知らないのか? と聞いた。 「未開拓地が多いから、冒険者とかもなかなか多く来る。ただ、狩り専門の者達には物足りないかもしれない」 いや、そういう問題じゃなくて! と少年は慌てた様子で首を横に振った。 「・・・つかぬことうかがうけど、この大陸の名前とか、この世界の名前とか、教えてくれる?」 シルフィラは訝しげに眉をひそめたが、聞かれた通りに答えた。 「カリィーナルのノジィリ大陸だ」 少年の顔が青ざめた。うそだろ・・・と小さく声がもれる。 「地球じゃ、ない・・・。うそだろ?!」
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