二章 “遺跡にて” 3
「それはそうと、さっきあんたが使ったのって魔法なのか?」 コウは歩き出して開口一番、シルフィラにそう尋ねた。 「さっきの? 穴から落ちたときのやつか? それなら、確かに魔法だな」 コウは思い出す。『我が求めしものの姿よ 成して見せよ 風の波』。これが発動の呪文なのだろう。 「・・・風の波って、街道で使ったものもそう言ってたよな? 今回はその前に何か言葉が足されてたけど、どこが違うんだ?」 ああ、それは・・・とシルフィラは前置いて、 「短縮詠唱ってやつだ。説明しなかったか? 正規にはさっき使ったみたいな呪文を唱えるんだけど、早く発動したいときとか、わざと魔法の威力を弱めたいときなんかに使う」 説明された気もする言葉に、ふーん、とコウは気のない返事をして、黙り込む。シルフィラもまた黙り込むが、彼は考えていた。言われて思い出したが、さっき使った魔法も、格段に威力が上がっていたからだ。実は、落とし穴に落ちたときに呼んだ風は、普通ならシルフィラ一人を支えるので精一杯といった威力しか持たないもので、二人そろって落とし穴の罠に落ちたのは結構ピンチだったのだ。それが、シルフィラ、コウの二人を支えてなお余りある威力を生み出すなど異常だ。 (なんで威力が上がってるんだろーな?) 共通点はないように思う。一度は森、一度は街道、そして今。使った魔法の属性も水と風であり、異なるものだ。もしかしたら、ほかの属性を使っても威力が上がっているかもしれないが、確かめてみるのも危険だ。 (・・・こいつに関係あるのか?) シルフィラは横目でコウのことを見る。自分の顔よりも少し下にある彼の頭は、松明の光を浴びて黒々と、炎を抱いている。やはりその髪は、漆黒の黒檀と形容するのが一番近いだろう。そして同じ色をした目。――異端の黒。 「・・・なんだ?」 ふっと意識を戻すと、コウがにらみつけている。シルフィラは苦笑した。――この少年はまるで、飼い慣らされていない獣のようだ。 「別に? コウを見てただけ」 コウはひどく不機嫌そうな表情を作ったが、すぐに顔をそむけた。シルフィラはその様子を微笑ましく思った。 (さて、慣れるまでどのくらいかかるかな・・・) シルフィラは、飼い慣らす気満々だった。
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