二章 “遺跡にて” 7
(標的ロックオンだよな、完璧に) コウは追いつめられていた。もちろん、眼前の獣――いや、魔獣に。 (ああ、そういえば昔から逃げるのはうまかった。・・・逃げるのだけは) 鬼ごっこではいつも最後まで逃げ切っていた。かくれんぼも、たかおにも、影踏みでもそうだった・・・と過去にかえってみても、現実がどうにかなるわけではない。 魔獣の爪を、牙を、体当たりをことごとくスレスレでかわして、それで余計に魔獣はコウを殺そうとして躍起になっているようだ。 (・・・「助けてやる」んじゃなかったのか?) シルフィラは現在不在だ。・・・役に立たねぇ! 手近なところにあった大きめの岩をつかんで、魔獣の頭狙ってブン投げる。狙い違わず当たって魔獣がひるんだその隙に、コウはシルフィラが進んだ方向に向かって走り出す。だが魔獣は素早く反応して、逃げ去ろうとするコウの頭に向かいその爪を振り下ろす。しかしコウはそれを横に横転するように転がってかわし、素早く立ち上がってまた魔獣と向き合う。――ずっとこの繰り返しだった。魔獣は体は大きいしなかなか素早いが、攻撃自体は単調で、逃げようと背中を向ければ爪で、立ち向かってみようかと決意すれば牙で、ひたすら動き回って動きをかわしていると体当たりをしかけてくる。そして、そのことごとくをかわしているのもまたコウ自身だった。いくら単調な動きとはいえ、パニックになっていたらまず無理だ。――コウの精神力と順応力はやはり結構並みではない。 「本当に、もう・・・俺、なんでこんなところにいるんだ?」 今更ながら、ここは『異世界』であることを理解する。異世界――地球では、日本ではないところ。魔獣に襲われる世界。命の危機を感じる世界。 「・・・おい! 強いっていうんなら、助けにこいっつーんだ! ばかやろー!!」 なんだかむかついたので、大声で叫んだ。
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