三章 “断罪と死” 13
牢屋を出ると、うつぶせになった男の身体から血が広がっている。 「・・・殺した、のか?」 階段を数段上がっていたリィンが、顔だけ振り向き短く告げた。 「殺してない。まだ」 「まだって・・・」 「放っとけば、死ぬ」 コウは、愕然とした。 (これが現実?) まさか、人の死ぬ瞬間を見るとは思わなかった。人の生死を、自分たちが左右することになるとは思わなかった。 「コウ、人が殺されるのを見たことはない?」 シルフィラの場に合わないほど優しい問いかけに、コウはその『死にかけ』から目を離せず、小さく頷いた。 「これが現実だよ。容赦をしたら、自分が倒れる。誰かを守るために、誰かを助けるために、誰かが死ぬことはもちろん、ある」 悪に断罪を。罪に死を。 まるで呪いのように、優しく、シルフィラはそう言い添えた。 「魔獣を殺すことと、人間を殺すことと。命を殺していることに変わりはない。命の重さは平等じゃないけど、命であることは平等だ」 リィンは、シルフィラのその説明に階段の一番上から振り返って複雑そうな顔で言った。 「なんか、聖職者みたいだぞ」 シルフィラはクスリと笑って。元々見目のいい顔が、普段は人懐こく見えるそれが、そうするとなんだかひどく冷めて見えて。妖艶、とも言えて。 「死を説く聖職者? まるで、死神だね」 リィンに向けたその表情ははっきりとは見えなかったけど、コウは、その横顔に初めて味わう種の恐怖を覚えた。 ――悪に断罪を 罪に死を―― そう言いきった、シルフィラの存在が恐い・・・。 コウはそう思いながらも、彼にどこか、共感できる気がするのもまた事実だった。
|