三章 “断罪と死” 14
ボン、ドン、と鈍く、何かが爆発するような音が断続的に聞こえてくる。それはまるで、爆弾が爆発するような音だった。 というか、爆弾が爆発してるんだってば。 コウは、比喩的表現に留めたい自分の頭の中を理解していながら、現実から目を逸らしちゃいけないと必死でいきりたたせた。 まず、武器庫があって。蹴破って。ああ、こっちの世界にもこんなのあるんだ・・・(でも実物見たのは初めてだけど)という、小型のダイナマイトのようなものを見つけて。シルフィラがそれを点火しては、リィンが、コウたちの脱走に気付いた誰かさんに向かって投げつける。後には死屍累々と山が築かれ・・・。 ・・・一体、どこのゲリラ戦だよ? 順応力がいくらあろうと、経験したことがない物事がこうも立て続けに起これば誰だって普通ではいられない。コウのように結構平然としていられるほうがおかしい。 ショック、ではある。 目の前のゲリラ戦(もどき)も、牢屋に入れられたことも、――他人が死にかける場面を見たのも。全て、初めてで。 でも、コウはパニックにはなっていなかった。どちらかというと冷静で、ただ、今はショックが大きいだけだ。 「リィンっ! ミナが暴走したら、コントロールできるか?!」 「できるかと言われたら断言は出来ないけど・・・やるしかないだろう!」 リィンがなんだか凛々しいぞ? コウは走りながらそう会話をしている二人の背を追いながら、自分が妙に冷静・・・いや、のんびりとしていることにふと気付いた。 「・・・なんか、俺って肝据わってるかも」 ぽつりと呟いた言葉は、前を走る二人には届かない。緊迫した二人の様子と、後ろから響く誰かの怒鳴り声の中、自分はなんだかおかしい。ふと、小さく笑いが浮かんだ。 ――やっぱり、俺はどこに行っても変わらないな。自分の居場所をつくると、途端に強くなるのは変わらない。 コウは、この世界に自分の居場所をつくれていることを確信した。 ――自分の居場所、ねぇ・・・?―― ふと、耳に響いたその声。コウは思わず立ち止まりそうになる。 「何してるっ?!」 それを見て発せられたシルフィラの声に、コウはかろうじて歩みを続けた。 ――さっきの声は一体? 何だか、とんでもないことになりそうな予感だ。あの、薄気味悪い声。これ以上、厄介ごとには巻き込まれたくないのに・・・。 一連のその様子を見ていた男がいた。 壮年の、短く刈り込んだ白髪が目立つ男だった。希少な黒い瞳が強い力を放っている。髪の元色はわからない。年齢の割りに、その髪は余すところなく全て真っ白だったからだ。 「これは・・・とんだ掘り出し物だ」 両の腕を広げた大きさほどの大きな水鏡に映るのは、今しがた牢屋から逃げ出した人間たちの姿。 フードが落ちて、黒髪黒目を存分に人目にさらした、少年。焼け落ちた灰の色を連想させる目をした、魔術師の青年。素晴らしい腕の冴えをした、剣士。 脱走されることは、予想していた。それでも自分にとっては良い方向にしか転ばないように図っている。しかし、思っていた以上のおまけ付きだったようだ。 ――男は、主と呼ばれる者であった。
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