fate and shade 〜嘘と幻〜

三章 “断罪と死”   19





 ――忌まわしい過去の記憶はいまだ脳裏に残っている。

 火。焼ける音。崩れる家。炎。炎の波。人影。・・・言葉にならない叫び。

 聞き慣れてしまった? 覚え慣れてしまった?

 そんなわけがない。ああ、やはり、いつまでも私は無力なんだ。

 炎。炎の海。一面に燃え広がる火は、全てを焼いてもなお止まらない。ただひたすらに広がっていくのだ。

 あの熱さ。あの恐さ。あの赤さ。あの叫び。

 慣れるものか! 忘れるものか! そして・・・私はあのとき決めたのだ。

 決して死なないと。私が死ぬのだったら、知らない誰かなど関係あるものか。全部灰になるがいい。

「・・・ナ!」

 遠くから聞こえてくる呼び声。だが、赤い景色を目に映したままのミナは、呆然と座り込んだままで反応しない。

「ミナーっ!!」

 眼前では、風車が火に包まれながらまわっている。ぎいぎいと軋むような音をたてながら、ごうごうと少しずつ燃え落ちていく。

 大きな声で呼ばれても、ミナは反応を返さない。・・・いや、返せない。

「・・・また、燃えてる」

 見知らぬ他人がどうなろうと自分は生き残る、そう誓ったのはまだ小さな頃。今の今まで、その決意は変わらないものだと思っていた。それが、どうだろう。実際に目の前に燃える町の光景は、その決意など簡単に崩れ去ってしまうようなものだった。

「ミナっ! 何やってる、逃げるんだ!!」

「また、燃えてるのよ、リィン。なぜ、私の元へ来たの? どうして、放っておかなかったの・・・?」

 ミナは強い視線で、自分の腕を引いて無理矢理立たせようとするリィンをにらんだ。

「思い返さないの? ・・・また、燃えるのよっ! 何もかも!」

 リィンはその言葉に答える代わりに、グイと腕を強く引いて、ミナを立ち上がらせた。

「どうでもいい。今は逃げるんだっ!」

 そして、その言葉の通り、炎から離れる位置へとミナを引っ張っていく。ミナは引っ張られながらも、強い瞳でリィンの背をにらんだ。

「どうでもいいですって?! 何言ってるの! あんたは、あんたは・・・何よりも、憎んでるくせにっ!!」

 吐き捨てるような言葉だった。そしてその言葉に、リィンはうなるような低い声をしぼりだし、ミナにかろうじて聞こえる程度の声で言った。

「だから、だからこそ・・・。ミナを死なせるもんか。死ぬまで、死んでも・・・」

 そのとき一際大きな炎が上がる。火の粉が飛び交う。背後で、焼けた風車が音を立てて崩れ落ちる。業火のような火の塊は、見ようによっては、美しくさえあるのだろう。燃え立つものは、恐ろしさの中に美しさも秘めているのだ。リィンは、それを身をもって知っている。

「何度だって、こうして助け出してやる。俺が! ミナのことを! 何度だってっ!!」

 体中に火の暑さを感じながら、リィンはただミナの手を引っ張って走り続けた。




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