三章 “断罪と死” 3
コウは宿屋の主人に金を渡し、二日酔いに効く薬を二人分と、傷薬に包帯をもらっていた。二日酔いの薬はわかるとしても、傷薬と包帯はどうしてだい? と、気さくな主人は笑いながらコウに聞いたが、まさか酒場で大乱闘かましてきましたとも言えず、曖昧に笑うことしか出来なかった。 「ぼうや、一緒にいるのは魔術師だろう。強いのかい?」 誰もかれもがぼうやと呼んでくるのはあまり気に入らないが、コウは、この主人くらいの年の人に言われるんだったらあまりいやではなかった。質問には、素直に答える。 「金髪と赤いのはそうみたいだ。茶色いのは、剣士だってさ。強いって、自分たちでは言ってたけど」 それを聞いた主人の目が、意味ありげに笑いの形をとった。コウは敏感にその意味深な様子を感じとり、眉を軽く寄せた。――なんだか、あまりいい気分がしない。 「そこを見込んでね、引き受けてほしいことがあるんだ。もちろん、依頼だ。金は出す。・・・どうだい?」 「・・・そういうのは、俺を通してじゃなくて本人たちに聞いてもらいたいんだけど」 何しろ、俺は戦う力のない部外者だし・・・と心の内で呟いて、コウは主人の言葉の真意を探ろうとその顔をじっと見つめた。 「そんな警戒しないでほしいんだがね・・・。悪い依頼ではないと思うけど?」 コウは、主人の様子を慎重に見つめた。――何か考えてはいそうだが、それが何だか読み取れない。時には荒くれ者たちを相手に商売することもある宿屋の主人に、まだたった数十年しか生きていないコウが敵うことは出来なかった。 「・・・聞いてみる。話だけでも聞くかどうか」 「ん、そうしてくれ。頼んだよ、ぼうや」 主人は晴れ晴れとした笑顔を、コウに向けた。コウは不安になった。――何か、良くない依頼をされる気がする。コウは、驚異的な順応力と精神力に、もう一つ・・・不安が現実になる体質をしていた。勘がいい、とも言う。 「・・・まあ、なるようになるんじゃね?」 しかし、それを細かく心配するような性格はしていなかった。
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