間章 10
ずる、ぴちゃ・・・ずる、どたっ! 重いナニカを、水たまりの中引きずるかのようなその音が、三人の耳に届く。音の最後は、ナニカを地面に落としたようなモノだった。 「・・・魔獣か?」 リィンが剣に手をかけ、いつでもすぐ抜けるように体勢を整える。魔術師である他二人を守るように前に出て、神経を張りつめる。 一瞬、三人の間に緊張が走る。 じりじりと相手の正体を見極めるために待っていると、茂みの向こうからため息が聞こえた。 「・・・え、って、あれ?」 声を上げたのはシルフィラだが、三人とも思ったことは一緒であった。もちろん、ため息だけで人物特定が出来るわけはないが、よく考えるまでもなく一番最初に思い浮かぶ正体の可能性は・・・。 「・・・コウ?」 シルフィラが茂みに向かって呼びかける。しばらくの間のあと、茂みが一際大きく揺れて、コウが出てきた。でもその表情がひどく不機嫌そうで、三人は声をかけるタイミングを失い、沈黙が少し。それを破ったのは、声にもかなり不機嫌さを匂わせたコウだ。 「・・・魔獣が出た」 その言葉にはっと顔色を変えて、リィンはコウに駆け寄った。 「だ、大丈夫だったのか? 怪我は?!」 随分と焦った様子だったが、コウは逆に冷めたもので、「見た通り、ないけど」とそっけない。だがそんなこと気にはせず、リィンは茂みの中をのぞき込み、 「そうか、それなら良かったけど・・・。それで、一体何を持ってきたん、だ――っ?!」 そして、顔を引きつらせる。ビシッと音を立てて動きが止まった。 「おい、ちょっと聞くけど」 そんなリィンを捨て置き、コウはシルフィラとミナの方へ目を向けた。 「・・・なんかいやな予感がするけど、聞くだけ聞くわ。何?」 ミナはそのナニカが隠された茂みを見透かすように視線をやりながら、コウへ尋ねた。そしてコウは聞いた。 「魔獣って、食えるのか?」 ――固まったリィンの視線の先。近付いたシルフィラとミナが見たモノは、びしょぬれの、水跡を遠く向こうから残した焦げ茶色の毛並みをした大きな熊・・・否、魔獣の死体。 「・・・食えるの、かしらね」 ミナの顔も、さすがに引きつっていた。
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