fate and shade〜嘘と幻〜

間章   11





 パチパチと、日は昇ったというのにまた焚き火が燃やされている。火の中に串にささって焼かれている肉からいい匂いが漂ってくる。しかし、誰もが手を出そうとしない。

「・・・やっぱさ、持ってきたんだから、コウが一番に食うべきじゃない?」

「いや、俺はお前らに『お土産』のつもりで持ってきたからさ・・・」

「――それなら、まずは一番苦労しているリィンが食べるべきよね?」

「・・・え、俺?」

 全員の視線がリィンに注ぐ。リィンは心なしか、冷や汗をかいて後ずさりしている。

「そ、あんたよ。魔術師二人とボウヤ一人を守って、たった一人前衛に立ってくれてる、強い剣士のリィン。やっぱり一番の功労賞は、あんたでしょ」

「そうだね、リィンが一番に食べるべきだよ。それにほら、魔獣の串焼きなんてすっごく希少じゃない? いいプレゼントだよ!」

「・・・そう思うなら、自分たちで食えってんだ!!」

 リィンはそんな魔術師二人に向かって恨みがましい視線を注ぎ、ちょっと泣きそうになりながら叫んだ。その叫びに、非常に静かな声が氷を降らす。

「・・・俺がとってきたモノが食えないとでも?」

 非常に、というよりむしろ非情な、有無を言わせない声音だった。

「・・・なら、自分で食ってくれよお・・・」

 リィンは泣き声で呟いた。

 ――顔を洗っていたら、魔獣が現れたという。熊のようだったから一瞬死んだフリをしようかと思ったが、そんなことしてたらまずやられる。そんなわけで、コウはそのへんにあった岩やらなんやらを使って撃退したという。けれど・・・。

 もちろん、大きな岩やらが当たって出来た傷のようなものもあった。けれど、一番大きな傷・・・致命傷と言えるモノは、焼けて、文字通り焦げついた腹の火傷だった。ミナならまだしも、コウは魔法を使えない。ということは、その火傷は・・・。

「そんなことより先にね、これを倒したのはボクなんだけどー?」

 正体不明、意味不明、摩訶不思議。三拍子そろったわけのわからない存在、黒精霊がやったものだった。

「んなことどうでもいいんだよ。リィンが自分で食うかダレカに食わされるかが、今は一番問題なんだから」

 ・・・いじめか? 食べないって選択肢はナシ?

 リィンは心の中でほろほろと泣いた。もちろん、心の中だけでなく普通に泣きそうでもあるが。

「んー・・・食べれば美味しいよ? なんなら、ボクが最初に食べてあげる〜!」

 黒精霊はそう言って、魔獣の肉の一切れにぱくりと食いついた。

「・・・毒は?」

 恐る恐る尋ねるシルフィラ。そんな彼に、

「そんなもの、ないよ〜」

 何言ってるの? アハハっ! と黒精霊は魔獣の串焼きをほおばりながら笑う。そうしながら、にっこり笑って無邪気に言った。

「ボクはね、コウに食べさせてあげようって思ってとったんだから、コウが食べてくれればそれでいいのー」

 それを聞いたコウは、勇気を振りしぼって炎にあぶられる串焼きへと手をのばした。そして勢いよくかぶりつく。

「・・・平気?」

 シルフィラのぽつりとした一言に、コウはしばらく黙って肉を噛み続けて、

「・・・案外、イケる」

 ――実際、直火で焼いたワイルドな肉汁滴る旨さというか・・・美味しかったのだ。それを聞いたシルフィラとミナは、同じように手をのばし、一口食べる。

「・・・結構、イケる味なのね」

「確かに・・・」

 それから後は躊躇なく平らげたシルフィラ、ミナ、コウ、黒精霊だが、リィンだけは、結局手をつけようとせず、朝飯は抜きということになった。




前へ   目次へ   次へ