間章 12
「・・・トラードに行こうかと思うんだ」 朝飯をたいらげたシルフィラが、開口一番、そう告げた。 「トラード? 私たちは行ったことないけど・・・あの交易の町へ? どうして?」 「いや、どうしてって言われても・・・交易が盛んなところは、情報も集まるから、さ」 ミナの言葉に、シルフィラはそう答えた。その言葉にリィンがしばらく考えてから、いいんじゃないかと頷いた。 「情報・・・ね。コウの故郷のことかしら?」 シルフィラは曖昧に笑って「色々」と言ったきり、詳しくは話さない。そんな様子を不思議に思いながらも、ミナはそれ以上興味を持たなかった。 それから一行は何事もなかったかのように“交易の町 トラード”へ向かって歩き始めたのだが・・・トラードまでの道のりは、順調にいっても五日はかかる。それまでは野宿だ。元々、宿屋の主人に騙されて散々な目にあった町 サクライフィスで、買出しもすませようと思っていたのだが、もちろん、そんなヒマはなかった。そんなわけで食料が尽きないかという心配があったが、それも朝の出来事で見事解決した。まあ、食う気があればなんでも食える。そんなモノだ。 歩き始めると、頭が冷静になったのか、色々な疑問が湧くように出てきた。 『黒精霊はいつもどこにいる?』とか『なんで浮いてるの?』とか『アレはそもそも何』とか・・・。考え始めるとひっきりなしだ。しかも黒精霊限定で。そのたびに尋ねてはみるが、あまりよろしい答えは返らない。そもそもどう考えてもおかしいモノなんだから、そんな答えを期待してはいけない。 「え〜? コウのブレスレットの中だよ?」とか「ボク軽いもん!」とか「だから黒精霊だよー」とか・・・。答えになってるのかわからない答えだが、納得できるところがまたやな感じだ。中でも、コウにとってショックだったのは黒精霊の住みかについてだろう。 「お、俺のブレスレットの中って・・・」 「あ、それって俺があげたヤツのこと?」 「うん。そうだよ〜?」 「・・・えーと、良かったじゃん、コウ。ちゃんと『お守り』として機能してるみたいだよ? ・・・って怒らないでよ、不可抗力だって!!」 「お前なーっ?!」 テンポよく繰り出される問答に、ミナとリィンは呆れたような顔をして加わらない。何を話していてもだいたい、最後にはコウと黒精霊、たまにシルフィラもという組み合わせで口ゲンカになっている。 「・・・まあ、仲良きことはいいことだ」 「ケンカするほど仲がいいって言うものね」 黒精霊はどうとして、シルフィラとコウよりは数年年齢が上なだけの二人は、大人の様子で傍観を繰り返す。 五日間ずっと、そんな感じでほのぼのしていた。
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