三章 “断罪と死” 8
「今日は野宿だな」 シルフィラはしぶしぶと言った。今日一日歩いて(もちろん休憩はとったが)、目当ての町までたどりつけなかったせいだ。 「一日歩いてもつかないじゃねぇかよ・・・」 シルフィラはブツブツと悪態をつきながら、野宿の準備を進めていく。横目でミナの様子をみると、荷物から携帯食料を出している。人数分だ。リィンとコウはいない。さっき、焚き木を拾ってくると言っていたから。 「それにしても、コウといったかしら? あのぼうや、厄介な事情が随分と山積みね」 ミナは用意した携帯食料をまとめて置き、手近にある木の枝を手に取り地面に大きな丸を描いていく。丸の中は、四人が入って十分な大きさがあった。 ミナが描いたのは、結界。この線の上で魔術を使って、その残滓を残すことで魔獣が近付いてこないようにするのだ。大雑把な火系の魔法ではそんな芸当はできないので、常ならば結界なんてはらないでリィンに警戒をまかせっきりなのだが、今はシルフィラがいる。利用できるものを利用しない手はない。 「はい、できた。じゃ、シルフィラ。簡易結界頼んだわよ」 火打石と、自分とコウの分の毛布を出して、リィンの手荷物の中から鍋と香辛料を探していたシルフィラは、その言葉に立ち上がった。 「はいはい、と。――風の波」 つい最近の魔法の威力を考えて、短縮呪文を用いたシルフィラ。だが、それはごく弱い、そよ風のようなものしか生み出さなかった。 「・・・あれ?」 それは、短縮呪文の正規の威力。そして、人間四人を囲む円にくまなく魔力を通わせるには、あまりに威力が足らない。 「何やってるの? いくらなんでも、短縮呪文じゃムリでしょう」 ミナが呆れた様子でシルフィラをいさめれば、シルフィラはシルフィラで訝しげに眉をひそめる。 「・・・どうしたの?」 その様子を見たミナは、腰を少し浮かせて話しかけた。――どうかしたのだろうか。魔力は足りているはずだ。今日、彼は魔法を使っていないのだから。どこか調子が悪くて、魔法を使えないのだろうか? 魔術師が魔法を使えないなんていうのは、かなりの一大事だ。 「え、ああ・・・なんでも? ちょっと、楽しようと思っちゃったよ」 シルフィラはごまかすように笑って、ミナが何か言ってくる前に、しっかりと詠唱しなおした。 「我が求めしものの姿よ 成して見せよ 風の波」 途端、ブワッと大きく風が一陣吹き、梢を揺らしながら通り過ぎた。後には、円上に残る魔力の残滓だけ。何もおかしな様子はない。ミナはそれを見て、何か言いたそうな顔ではあったが、浮かせた腰を下ろした。 「おしっ! 絶好調!」 ガッツポーズを作ってそう言ったシルフィラは、普段どおりに笑っていた。
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