四章 “オブ・セイバ” 1
四日目、一行は大きな街道に出た。街道には隊商や大荷物を抱えた商人などが通い、ごく自然に、横道から入って一行はその一定間隔に空いた隙間の中に入り込んだ。 「ふう・・・まあ、ここまで来たらあとは道なりに歩いていけば、着くよ」 ここまで一行の道案内をしていたシルフィラは、知らない場所で見知ったヒトを見つけたかのように、安心した様子でため息をついた。 「交易の町、トラード・・・大きな町なんでしょ?」 「もちろん。ここらじゃ一番大きいんじゃないかな? 交易の町っていうんだから、外の大陸との交易も盛んだし」 へえ、と相槌を打ったミナは、「楽しみね」と言葉をつないで黙々と進みだす。 「・・・外の大陸、って港町なのか? そのトラードって町」 コウが疑問に思ってそう聞くと、シルフィラは、うーんと・・・なんて言えばいいのかな?などと言って頬をかりかりかいた。 「うんと、じゃあ、コウ。手をこうしてみて?」 シルフィラはそう言って、自分の両手の親指と人差し指をそれぞれ合わせて、三角を作った。コウは無言で同じものを形作る。 「まず、この角が谷。この角が山、この角が海だとするよ?」 上から順に、コウから見て時計回りに三角形の三つの角を指差しながら、シルフィラは前置いて、さらに続ける。 「トラードはこの三つに囲まれた真ん中にある。山は町から横一直線だから、出入りのために山越えをする必要はない。谷はこの大陸のずっと端にあるから、なんの妨げにもならない。唯一海だけがすぐ近くにあって、トラードは海には面してないけど、この海につながる川が町の真ん中を貫いて通ってる。だから外の大陸との交易が盛んになるってこと」 ・・・デルタに囲まれた地域。魔の海域? いや、海上じゃないしな・・・。 コウは思わずそんなことを想像してしまい、首を振ってその考えを打ち消した。かの有名なデルタ海域。舟が消えたり沈んだり、色々と良い話を聞かない。磁場の狂いが原因だとかなんとか様々な憶測は飛び交っているけれど、明確な事実は出ない。・・・まあ、そんなモノだ。憶測は憶測のまま、結局予想というものの領域から外へは出られない。 「コウ、聞いてた?」 「聞いてた」 そっけなく答えたコウは、デルタという形のなんとも不吉な予感に、またしても眉をしかめるのだった。
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