四章 “オブ・セイバ” 10
昼が過ぎて。 「コウ、帰ってこないな・・・」 リィンが呟いた。独り言のようだったが、他二人も少なからず同じ事を考えていたので、答えは返ってきた。 「そうだね・・・どこまで行ったんだか。迷ってるのかな? でも、平気だとは思うけど・・・」 「まあ、黒精霊がいる限り大事は起きないとは思うわね・・・」 「・・・でも、遅いよな。俺、ちょっと近くを探してくる」 シルフィラとミナの言葉をそこまでは信用できないリィンは、部屋を出て行った。 それからしばらくして、リィンが戻ってきた。 「いなかった、みたいね」 そうシルフィラに聞かれたリィンは、不安げな表情で「ああ・・・」と言い、部屋の入り口で立ったままうつむいてしまった。 「ほら、そんなに心配しなくてもアイツがいるし・・・。第一、コウだよ? 心配しても無駄かもしんないよ? ――俺は迷ってるんだと思うけどね」 シルフィラがそう言えば、それに賛同する形でミナも頷く。 「・・・俺はあのよくわかんないヤツのこと、お前らみたいに信じてはいないからな。心配するなって言われても、無理だって」 落ち込んだ声のリィンに、ミナは呆れたような視線を向ける。 「じゃあ、こう言ったほうがいいわね。・・・今ここにいないのは、コウよ? あの、一筋縄じゃいきそうもないボウヤよ?」 「・・・まあ、そっちのが説得力あるよね」 コウ、恐るべし。ミナに一筋縄じゃいかないとまで言わせるとは。 リィンはその言葉に、不安が軽くなったのがわかった。何より、ミナにこうまで言わせるヤツがちょっとやそっとのコトでどうこうなるとは・・・考え付かないから。ミナは、リィンの感情の基準になっている。
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