四章 “オブ・セイバ” 11
日が落ちる。今日も一日が終わっていく。 けれど・・・。 「さすがに、一日中っていうのは」 シルフィラが落ちていく日を見つめながら言った。 「リィン、『ちょっと歩いてくる』・・・確かにそう言ったの?」 「ああ、ヒマだからって・・・そう言ってた」 徐々に焦りが出てくるのは、心配からだけだろうか。それとも・・・この暮れ落ちる日のせいだろうか。鮮やかなまでに赤く綺麗なのに、完璧に暮れてしまった部分は侵食されるように濃い藍色、薄紫などに染まっていく。 「もし迷ってたとしても、コウはバカじゃない。どうにかして帰ってこようとするはずだ。それ以外の理由と言ったら・・・」 シルフィラは考え込む。理由といったら? 黒精霊でも対応出来ないような不測の事態が起こるしか、ないだろう。 「・・・とりあえず、朝まで待ちましょ。夜に出歩くのは、私たちも見知ったところなわけじゃないから、効率悪いわ」 ミナが提案し、三人はじりじりと、焦がれるように待ち続けることにした。 窓から空を見上げると、半分以上侵食されたその藍色の中に、ぽっかりと穴が開いたように黄を帯びた白に光る半月が。そして、いつ見ても禍々しいほどに濃い紅の月・・・紅月が、寄り添うように浮いている。心がざわつくような感覚を覚えて目を逸らすも、ざわつきはおさまらなかった。 ――コウは、帰ってこなかった。朝になり、二つの月が完璧に沈んでも。
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