四章 “オブ・セイバ” 13
オブ・セイバ! 稀なる者よ!! 高貴なる者よ!! 唱えるように言葉は繰り返され、コウの耳に届いてくる。 ――ああ、またなんか変なのに巻き込まれた・・・。 コウは、すでに達観しかけていた。もう、どうにでもなれ。 巻き込まれるのには慣れたつもりだったが、やっぱり、自分から望んだわけでもないことというのは存外疲れるものだ。というかすでにムカついている。 「出せーっ!!」 大声で叫ぶが、誰も開けようとはしない。呪文のような声も止まない。 「俺が何だってんだよっ! 誰なんだよ何なんだよ、オブ・セイバって!!」 コウは叫び、でもその叫びが誰にも届いていないこともわかっていながら・・・また叫ぼうとして、 「コウ〜、疲れない?」 黒精霊が無邪気に話しかけてきて、行き場のない怒りを思わず爆発させた。 「ふざけんなっ! 疲れないヤツがいるか! わけわかんねぇことに連続で巻き込まれて、わけわかんないこと言われて・・・いると思うか! 全然平気です〜、なんてヤツが! 元はと言えばお前だって一役買ってんじゃねえかっ!」 「あ、久しぶりだねー、コウのキレっぷり」 「ざけんなっ?! こんなもんに久しぶりも何もあるか!!」 さんざん怒鳴っても黒精霊はどこ吹く風と受け流し、コウは結局、怒鳴りつかれてへたり込む。 「・・・何なんだ、本当に。俺が何をしたっ?!」 その言葉を聞いて、黒精霊は子供のような笑みを浮かべる。 「何もしてないから『巻き込まれる』って言うんでしょー? ダメだなぁ、コウ。言葉をわかってないよ〜」 コウはそれに再び罵声を浴びせ、途端座り込んで大人しくなってしまった。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 二人の間に無言が続く。壁に背をあずけて目をつむったコウは、調度も窓一つもないが妙に小奇麗で、なおかつなぜか明るい部屋の中、思い返す。・・・何が悪かったのか。 一人で歩いたから? 黒精霊が一緒にいたから? 見知らぬところを探索したから? 衝突した時、フードが外れていないかどうか確認しなかったから? ――いや、違う。何も知らないから・・・だ。 歩いてみてわかった、全く見覚えのない光景。雑多な町並み、暗い路地裏、何かがすえたような臭いもあった。背筋が粟立つような感覚は、何も知らなかったことを知ったから。痛感したから。 「・・・なんだよ。アイツにお世話されてたってわけか、俺」 ひどくお人よしなあんなヤツに・・・。コウは自嘲して笑い、そして、カッと目を見開いた。 「・・・絶対自分の力でこの部屋から出てってやる」 黒精霊が「わあ! すごい! でもどうやってー?」と声を上げれば、コウは「知るか」と一言返し、それでも立ち上がり、何とか外に出ようと考え始める。 模索するように動くコウを見て・・・黒精霊は、しばらく放置することに決めた。
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