四章 “オブ・セイバ” 14
シルフィラは椅子の上で手を組んで待っていた。するとしばらくして、閉じきられた隠し戸の向こうで足を踏み打つ音が響いた。鈍く、思った以上に部屋の中に響き渡る。ああ、こんな音がするんだな・・・と思いながら、シルフィラは視線を上げた。 「ラン」 飛び込むように眼前まで来たランドールは、出て行ったとき以上に真剣な表情でシルフィラに向き合った。 「シルフィラ・・・かなり、いい情報じゃないぞ」 シルフィラはその言葉を真っ向から受け止め先を促し、ランドールはこめかみを親指で押し、頭痛がするかのように眉をしかめてため息一つ、情報屋の顔をしたまま話し始めた。 「・・・集会が開かれるそうだ」 その言葉に、シルフィラは顔を引きつらせた。 「・・・予測は出来たとはいえ、さすがにキツいね」 ランドールは淡々と、言葉を続けていく。 「集会の中身がどんなものかは、知ってるだろ? その獲物・・・ヤツらにとってみれば捧げモノが、手に入ったってことだ。しかも今回は、『緊急集会』だ。前もって伝えられて開かれたわけじゃない。・・・ヤツらにとってよほどの捧げモノを、手に入れたんだろうな」 顔色を失うシルフィラに、ランドールは無慈悲に、その感情のこもらない目を向ける。 「手に入れた獲物は、黒目黒髪をもった異端の少年らしい。しかも、姿を現した黒い精霊を引きつれた・・・。シルフィラ、間違いなく、お前のつれなんだな?」 シルフィラは間を開けて、頷いた。ランドールは大きくため息をついて、顔に表情を戻した。 「まーたお前は厄介なことに巻き込まれやがって・・・前にもなんかあったぞ、こんなこと。ここまでヤバくはなかったと思うけど、なんだったかな・・・」 「・・・多分、見ず知らずの異端の人を助けてやったら、俺自身が売られそうになった時のことじゃない?」 「・・・それ、初耳だけど。そんなこともあったのか、お前」 「え、ヤバ・・・あ、ちょっと? 怒らないでよ、ラン!」 顔に青筋を浮かべたランドールに慌てながら、シルフィラはばたばたと手を振った。そんな様子に深ーくため息を吐き、ランドールは親指の腹でこめかみをぐりぐりと押す。 「・・・全く。俺だって多少は心配してるんだぜ?」 シルフィラは「わかってるよ・・・」と淡く笑い、話を本題に戻そうと咳払い一つ。 「・・・で、場所は?」 その時には、笑顔も緩んだ空気もすでに消え、ぴんと張られた糸のように、真剣な顔がのぞいていた。 「 わかった、と頷いてシルフィラはそのまま駆け出そうとする。その背に一言、ランドールは声をかけた。 「礼は?」 「また後で払うよ! ・・・今は忙しいから、さ」 場違いなほど明るく出された声と、一瞬振り向いた笑い顔。 シルフィラがいなくなったあと、ランドールは再度こめかみをぐりぐりやっていた。 「・・・そうじゃなくてさぁ」 何でわかってくれないかな、とランドールは呟いた。昔はちゃんと言えただろう? と、心の中で嘆きながら。
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