四章 “オブ・セイバ” 18
ランドールは左回り、ミナとリィンは右回りで、安全に侵入出来そうな場所を探して彼らは一旦別れて歩き出す。 高い壁は中のモノを隠しきって、決して見せず、決して出さず、なにより硬質で冷たく・・・なんとなく、さびしい。 ランドールは壁の切れ目がないか、低くなっている所がないかなどと確かめながら歩いていたが、実際のところ、この建物の外壁にはどんな欠点もないのだと、そんな情報を仕入れていた。 それでも、中にどうにか侵入しなければならない。シルフィラがどうやって中に侵入しているのか――もしくはしていないのかもしれないが――はわからないが、どうにかして中に入らなければならない。集会を開くとき、信者が入る門に見張り番はいないという情報だが、その扉は厚く、大きく、頑丈に閉ざされていて一人二人の力で無理矢理開けることは出来ないらしい。 ・・・まあ、内容が内容だしな。 “集会”の中身を考えて、ランドールはそう結論づけた。異端の黒の恩恵を受けし者を『喰らう』儀式。とてもじゃないが、信者以外の者に見られるわけにはいかないのだろう。 厚い壁に嫌気がさして、ランドールは一旦立ち止まり、上を見上げた。見上げた視線を右へ左へとずらして・・・ナニカを見つけた。 「・・・ヒト?」 壁の上に飛び上がるようにして一瞬にして現れたのは、一つの人影だった。そしてその人影は、壁の上のスペースにうまく着地することが出来ずに・・・。 「っ!」 ずるり、と壁の上から落下してくる人影の下に、ランドールは咄嗟に滑り込んだ。 どさりっ、という音とヒト一人分の重みと・・・何かが壊れる、ぐちゃりという音。それらを感じながら、ランドールは支えきれずに勢いよく尻餅をついてしまった。 「いって・・・なんだ?」 ランドールの腹に頭突きするような角度で落っこちてきた人影は・・・自分のみぞおちを見下ろしたランドールは、真っ先に視界に飛び込んできた色彩に、凍りついた。 「黒・・・」 純粋な、黒。黒い髪の隙間から、地肌がのぞいている。ぐったりとして動かない体は、ランドールの腹の上に確かな重みとなってのしかかる。 「お、おいっ! しっかりしろ!」 ほぼ間違いなく・・・この人間が自分たちの目的であろう。意識を失った体も顔立ちも、まだ若さを残す少年のものだった。 黒い髪が顔にかかり、かすかに影を落としている。思ったよりもパサついた感じがするその髪質になぜか驚く。漆黒というよりも・・・黒檀のような。 閉じられた瞳の色はわからないが、この瞳も黒なのだろう。深く見透かされるような漆黒か、この髪と同じような黒檀か、それはわからないけれど。 その時、少年の体が身じろぎした。ランドールは少年がゆっくりと起き上がるのに手を貸してやりながら、確認をとる。 「俺はラン。シルフィラの友人だけど、あんた、コウ・・・だよな?」 コウ、と呼ばれて、少年はぴくりと反応し、ゆっくりと、その視線をランドールへと向ける。ランドールは視線を向けられた瞬間、再度凍りつきそうになった。 ――その目が、よく見知った誰かのモノと、とてもよく似ていたから・・・。
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