四章 “オブ・セイバ” 21
会いたくもないヤツに会えば、もちろん不機嫌になる。それが気が合わない者ならなおさらだ。さらに、ドがつくほどの変態ならもっとだ。 「ああ・・・まったく、因縁がつきまとってしょうがないよな」 シルフィラは正面突破していた。そりゃもう、実に堂々と。門から普通に入って、信者に混じって楽々と、集会が開かれるその場に侵入していた。最終的に目指すのはコウの救出だが、それより先に、シルフィラにはやることがあった。 この信者達を指揮している者を、シルフィラは知っている。まずはそこを、つぶすのだ。 「今までは実害がたいしてなかったから放っといたけど・・・コウに手を出したんだから、もう見逃してはおけないよなあ・・・」 実際、実害がなかったわけではない。暴行されていた少年を助けようとしたら実はワナで収集品にされそうになったり、手に入れた情報がデマで捕らえられたり・・・共通するのは、“収集品”にされそうになったことだ。――異端と言われる者をとことん愛し、愛しぬき、いつまでも手元に置いて愛でようと企む、そんな変態・・・それが、この信者達を指揮する人間だ。 「もう見逃せない、んだけどなぁ・・・。はあ、どうしてこんなに気が滅入るかな」 自分を含めた異端というモノを、もれなく変態的に愛しぬく男を好きになれるはずがないからか。それとも、コウはすでに逃げ出している可能性があるからか。そしてその両方ともがあてはまり、それだけが理由じゃないこともシルフィラにはわかっていた。 ステンドグラスがはめられた建物は、壁の中にある数個の建物の中で一番小さいが、一番豪華で、たたずまいは洗練されて美しい。そこは、信者にとっては聖職者が住む聖なる都だ。神の告げる道を信者に示す男が、そこには一人でいる。 信者が集まり、ひたすらに捧げモノへの賛歌を唱えている建物の隣。そのステンドグラスの塔の扉へ、シルフィラは手をかざした。 「我が求めしものの姿よ 最ある力を成し放て 風の刃」 ごく落ち着いた声で詠唱されたその魔法は、シルフィラが求めるままに分厚い木の扉をばらばらに切り裂いた。扉の破片が音を立てて崩れ落ちようとする。だがその音は一切なく、地に落ちた破片の山は瞬く間に地面へ向かってめり込んでいった。 「・・・わざわざ、準備がいいものだね」 シルフィラが皮肉ったその言葉に、扉がなくなった建物の内部から、ねっとりと絡みつくような男の声が答える。 「貴方に、駆けつけてきた純情で可愛い信者達を殺させるわけにはいきませんから」 声の主は、動じることもなくステンドグラスの光の下に立ち、毒のある花のように鮮やかな微笑を浮かべている。シルフィラが一歩を踏み出し、建物内部に入ると同時にその男は両手を宙に広げ、自分の姿を、声を見せつけるように。 「ようこそ、シルフィラ。異端の王」
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