四章 “オブ・セイバ” 27
二日後、宿屋を出る。 「・・・じゃあ、また」 別れの挨拶を短く交わす四人。ミナとリィン、シルフィラとコウ。四人は、ここで別れることに決めた。 ミナとリィンは、はるか西・・・故郷へ。シルフィラとコウは、またアテのない旅へ。 「・・・そんな顔すんなっての。また、会えるだろ」 ぶっきらぼうにコウが言い放つ。リィンが、悲しそうな目でシルフィラとコウを見るからだ。 「そうだよ、リィン。別に今生の別れ、ってことじゃ、ないんだからさ!」 励ますようにシルフィラが言い、リィンの肩をぽんっと叩く。 「そうよ、リィン。思った以上に、狭いこの世界の中よ。また会えるんだから」 呆れたようなミナ。けれど、突き放すのではなく慰めるように、シルフィラが叩いたのと逆の肩を叩く。 「・・・さ、行きましょ」 ミナは言い、シルフィラとコウに背を向けた。リィンは名残惜しそうに視線を二人に注いでいたが、一度自分に頷くと、ダダッと走ってミナの横に並ぶ。そして、二人そろって、手を振り、遠ざかる。 ずっと向こうに影が消えるまで見送ってから、シルフィラは手をすっと下ろした。 「・・・行っちゃったね」 「・・・だな」 シルフィラの言葉に、コウは同意する。 「・・・また、二人旅だ」 「・・・そう、だな」 さらに頷く。言葉少なに会話を交わす二人。名残惜しいとばかりに、豪奢な赤髪と平凡な男が去っていった道を見つめ、そのまま、ぽつりとシルフィラが聞く。 「・・・あのさ」 「・・・何だよ?」 改まった口調のシルフィラに、コウが目を向ける。 「・・・俺、行きたいとこ、あるんだ。会いたいヤツも、いるんだ」 「・・・ああ、それで?」 シルフィラを促し、コウは尋ねる。 「・・・行っても、いいかな? コウの帰る方法を探すの、後回しになっちゃうけど、さ」 「・・・いいんじゃね? 元々、アテのない旅、なんだろ? 出来た理由をアテにするのも、悪くないだろ」 二人は、頷きあう。行き先は決まったのだ。あとは・・・。 「じゃあ、行こうか」 「だな」 出発するだけだ。 アテのない旅、目的のない旅。出来た目的を旅の理由にするのも、たまにはいい。二人は、今まで向いていた方向に背を向けて、並んで歩き始めた。 「・・・もう、出たか」 ランドールは窓から入る光を見つめる。今日の朝出ると、シルフィラ自身が、昨日報告へ来た。知らせに来なくても情報は入っていたのに、なぜ来たのか。そっちの方が、むしろ不思議でもあった。 昨日の夜。仲間の目を忍ぶようにここへやってきたシルフィラは、作りモノじゃない柔らかい笑顔を浮かべて、去り際に、「ありがとう」と一言だけ残していった。 「色々さ、変わるモノもあるんだよな。変わらないモノも・・・」 変わったことが多すぎて。変わらなかったことをつい見逃してしまいそうになる。シルフィラの笑顔・・・変わっていなかった。小さな頃と、全然。 ランドールは、窓辺に立ってたそがれた。しばらくの間そうしていたが、やがて、自分のほおを景気づけに一発打って、大きくのびをした。 「・・・じゃ、今日も元気に情報交わしますか!」 ――変わらないモノがあると、人生、楽しくなるものだ。きっと。
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