fate and shade 〜嘘と幻〜

四章 “オブ・セイバ”   3





 この陣営の中でトラードに来たことがある唯一の人物であるシルフィラは、夜になると良い宿がなくなるかもしれないから、と言ってまずは宿屋を目指して歩き始めた。ほどなくたどりついた宿屋は、一階の奥が食堂になっていて、あまり大きくはなく、内装は落ち着いていた。そして宿屋の主人は寡黙そうな人で、女将は肝っ玉の強そうな人だった。

「シルフィラ! 久しぶりだね!!」

 顔なじみらしい女将はそう大きな声で親しげにシルフィラを呼び、呼ばれたシルフィラはといえばいつもの『にっこり』ではなく、もっと砕けた『にかっ』って感じの笑顔を浮かべて、片手を上げて答えた。そのままシルフィラは歩いて、黙々と手元の紙束をめくっている主人に向かって話しかけた。

「こんちは、親父さん」

 話しかけられた主人は眼鏡をちょっと下げてシルフィラの顔を見て、「・・・いつもの端部屋かい」とぽつりと呟き聞いた。

「えと、今回は四人組みの部屋を借りたいんだけど・・・空いてる?」

 そう聞かれた主人は視線をちょっとだけ後ろにたたずむ他三人に向け、何も言わずに手元の紙束をめくりだした。

 何が書かれているのか、それほど部屋数があるわけでもないだろうにやたらと分厚いその紙をしばらくめくり続ける。その音に時に、食堂の向こうから聞こえる誰かの声がノイズのように混ざる。

「・・・一部屋空いとるよ」

 シルフィラは満足そうに頷き、「どこの部屋?」とさらに親しげに尋ねる。主人は無言のまま鍵を取り、渡す。その鍵に番号は書かれていなかった。

「どうも。じゃあ、お金はいつも通り前金で払うから・・・」

 金の話が出ると同時に、ミナが反応した。

「ちょっと待って。私とリィンの分はこっちが持つわ」

 突然の申し出にシルフィラが振り返ると、ミナが思った以上に真剣な顔で立っていた。

「うん・・・わかった」

 シルフィラは驚きながらも頷いた。ミナは二人分の、とりあえず二日間泊まると設定して金を払った。

「毎度あり・・・」

 一応礼は言った主人だが、言わないほうがいいんじゃないかと思うようなぶっきらぼうな声だった。




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