四章 “オブ・セイバ” 4
活気という点では中々なものだろう。席はほぼ埋まっていて、四人はそれぞれ空いてる席に座った。二人ずつ、シルフィラとコウ、ミナとリィンという風に別れた。――食事を食べ、酒を頼んでから少し経った。ふと気付くと、四人それぞれが別行動していた。 シルフィラは昼間は宿屋の受付をしていた主人に、カウンター越しに親しげに何やら話している。リィンは冒険者風のパーティの中に入り込んで語らっている。コウとミナは・・・。 コウはというと、数人の女性に囲まれて心なしか赤くなっていた。 「や〜ん、この子可愛い! お姉さんたちがかまってあげるわぁ」 「いらねぇっ! かまうな!!」 「あん、つれないわ。でもその態度がまたかぁわいいわねん」 ・・・あでやかな女性達の色気は、匂い立つようであった。胸元が広く開いた、薄手で鮮やかな色彩の服はとても普通の職業の女性とは思えない。化粧の仕方も、つやっぽく見えるように意図されているようだった。 「あのねぇ、お姉さん達、踊り子なのよ。この町の名物よぉ? そんな私たちに声をかけられて、全く嬉しくないのかしらん」 コウがつんとした態度で「嬉しくない」と答えると、女性達は「あら、素直じゃないわねぇ」と眉をしかめ、「でも可愛いわぁ」と突然コウに抱きついた。 「〜っ!! 放せー!!」 狼狽したコウは、真っ赤になって暴れた・・・。 ミナの姿は、いつの間にか消えていた。 それにまず気付いたのはリィンだったが・・・どこかいやーな予感に襲われて気付かなかったことにした。 ・・・たまにはさ、トラブルに巻き込まれないで平穏にしてたい。 苦労人とよく言われるが、その通りだよな・・・とリィンは深くため息をついた。 「お? なんだ、悩み事か?」 「ああ・・・相棒がどこまでもどこまでもどこまでも! 向こう見ずだから俺が被害を受けて受けて仕方ないんだ・・・」 暗い告白を、すでに酔っている冒険者風の男たちは豪快に笑い飛ばした。 「ははっ! お前も大変だな!! まあなんだ、飲め! いいから飲め!」 かと思ったら、 「お前も大変なんだな・・・俺も、俺だって・・・う、うぅ」 困ったことに、泣き出すヤツまでいた。 「あ、な、泣くなよ! 俺のほうが泣きてぇよ、本当に・・・」 情けないリィンの声は、無鉄砲で乱暴なミナに対するものだったのか、いきなり泣き出したヤツを慰めなきゃいけないからなのか・・・どっちもかもしれない。 「・・・シルフィラ、お前が仲間をつれてくるとは珍しいな」 シルフィラが一人でしゃべり続けていても相槌すら打たなかった主人が、言葉の切れ目を狙ってぽつりと聞いた。 「あ、アイツら? んー・・・仲間っていうか、旅の道連れみたいな感じ、だな」 そう言いながらも嬉しそうに笑うシルフィラは、子供っぽく見えるようだった。 「・・・そうか」 それ以上は何も言わず、主人はまた沈黙した。シルフィラもひとまず話し終えたのか、同時に静かになって酒を舐めるように少し飲む。 ――静かに、時間は過ぎる。二度と戻らないかもしれない今という時間。それを確かめるように、味わうように・・・。
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