fate and shade 〜嘘と幻〜

四章 “オブ・セイバ”   5





 朝早く。町はすでに活動を始めている。

 町の最たる要所である大河の近くを通りかかった時、かめに水を汲んで運んでいる親子がいた。上等な服は着ていなかったが、その顔はきらきら輝いていた。子供は笑い、駆け、親を手伝ってかめを一緒に運ぶ。しばらく見ていると、運び終えた子供はごく自然に近所の他の子供達と合わさって、笑いながらどこかへ行ってしまった。

・・・俺にもあんな時があったよな。

 そんな風に思ってしまうのは、これから向かう元にいる、アイツのせいだろう。シルフィラはわかっていた。

 細かい道をいくつも曲がり、たどりついたのはなんの変哲もない壁の前。シルフィラはその壁の前に立つと、一歩下がってその場で右足を強く地に打ちつけた。打ちつけられた地面はべこりと下がり、同時に壁が開く。開いたわずかな隙間に手を入れ、横に滑らして中に入ったシルフィラの動作は、慣れたものだった。目の前に現れた薄暗い通路を、勝手知ったる他人の家、とばかりに堂々と進んでいくと、光が射し込む部屋が現れた。そしてそこに・・・。

「久しぶりだね、ラン」

 呼びかけたシルフィラの前には、男が一人、後ろを向けて立っていた。

「・・・誰だっけ、アンタ」

 無機質げに声が返事をして、シルフィラは苦笑しながら答える。

「そんな怒るなって、ラン。・・・長い間来なかったのは、悪いと思ってるんだからさ」

 ランと呼ばれた青年は、なおも感情のこもらない声で言う。

「ならせめて、昨日のうちに来るべきだった。・・・この町へ入ったのは、昨日だろ。来れたはずだ」

 シルフィラは困ったように頬をかいて、

「ラン・・・いじわる言うなよ」

 青年が、そこで振り返る。

「まあ・・・赤毛の女、剣士、少年。仲間がいたなら、仕方がないだろうさ」

 そして、にかっと笑いかけた。さっきの声の主と同一人物なのか疑うほど、人懐っこい笑みで。

「久しぶりだな! ・・・シルフィラ」

 感慨を込めた表情と言葉は、とても嬉しそうであった。




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