四章 “オブ・セイバ” 7
朝帰り、ミナの懐は温かかった。 「うふふふ・・・まあ、チョロいわよね」 妖しい笑みを浮かべた顔も心なしか上気したように赤く、ミナはそんな心底嬉しそうな様子で宿屋の一室へと帰った。 「・・・またかよ」 ミナを一目見たリィンの第一声がコレ。呆れたような、なんだか泣きそうな、色々と感情の込められた声だった。 「ふふ、ご覧なさいよ。これでしばらく安泰よ」 「どっちかっていうと心の安泰が欲しいよ・・・危ないからやめろとは間違っても言わないが、悪どいからやめろとは言ってもいいよな?」 ふう、とついたため息は深かった。リィンは喜ぶミナと対照的に、どんどん気分が落ち込んでいくのを自覚した。 「まあ、いいじゃない。そもそも、部屋につれこんで何するつもりかなんてよくわかってるんだから、正当防衛と謝礼金と思えば当然でしょ?」 「過剰防衛だろ・・・」 もう一度はかれたため息はさっきよりもなお深く、リィンの気分はドン底だ。 「・・・過剰防衛結構よ! 私だって年頃の女なんですからね! 「怪我は?」の一言くらい聞けないの?!」 「・・・絶対あるわけないし」 「何か言ったっ?!」 「いや、何も!」 掛け合い漫才のように続く問答は二人そろって一方通行で、中々かみ合わない。そのうちに怒鳴りつかれたミナが、思えば見当たらない他のヤツらの話に論点を移さなければ、まだまだ続いていただろう。 「そういえば、シルフィラとコウは?」 「二人とも、朝早いうちから出ていった」 「へー、そう」 その言葉を聞いて、ミナはリィンに提案する。 「なら、私たちも行きましょ! 買出しもしなきゃいけないし!」 ・・・ミナの買出しは衝動買いの繰り返しなんだよなぁ、特に金があるときは。 リィンはそう思って、さらに憂鬱になった。なんだか、いいことの起こらない一日になるような気がする。・・・気分からくる、どこまでも淀んだ予感であった。
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