fate and shade 〜嘘と幻〜

五章 “幻日”   3




 夜ごと火をたいて休むたびに、シルフィラはこれから行く場所・・・故郷の思い出や、母や父のことを、コウに語るように話した。コウはただ黙って口出しせず、目も合わせない。聞いているのかどうかわからないような態度だが、シルフィラは気にしない。

 この日も、そうして話していた。

「子供は五人だけ。コウもトラードの町で会ったけど、ランドール。ランは俺と一緒にいつも悪いことしてて、俺より一歳年上なだけなのに、いつもそれでいばってたんだ。アイシーク・・・アイスってやつは、ランよりもさらに一歳上。でも、ちょっと臆病でね、俺やランと一緒になって悪いことしてても、いつも、大人に見つかって怒られたらどうしよう、って言ってたよ。女の子は一人だけで、俺と同じ年の、カーヤトッニ。カーヤは一番わんぱくで、俺達はカーヤの子分みたいだった、まるで。それと・・・シンパス。年の点でも俺より四歳上の一番年上。頭の良さは、抜きん出てた。大人達は、天才だって言ってた。俺達も子供ながらに、シンパスのこと、すごく尊敬してたよ。俺達といても、どっちかっていうと、一緒に遊ぶ、っていうのじゃなくて、危ないことしないように見張っててくれたみたいで。・・・シンパスは責任感も強かったから、きっと、一番年上なんだからって、大人達の代わりに見守ってくれてたんだ」

 長い独り言。シルフィラは、誰に話すというよりも、思い出したことを言葉の形に置き換えているように。コウは燃え盛る炎をずっと見ていたが、そこで初めて、シルフィラの言葉に口をはさんだ。

「・・・そのシンパスってヤツ、どうかしたのか?」

 シルフィラは、コウが話しかけてきたことに驚き、その内容には顔をこわばらせた。

「・・・鋭いね。なんでわかったの?」

「別に・・・。口調が、少し違った」

 シルフィラが聞けば、コウはぶっきらぼうに返し、一度はシルフィラの方に向けた視線を、また炎の中へと戻してしまった。

 シルフィラは、コウの言葉を頭の中で繰り返す。『どうかしたのか?』それは的確な質問で、シルフィラは結論から話し出す。

「行方不明に、なっててね」

 今どこにいるんだか、わからないんだ・・・。そう言いながら、シルフィラはシンパスを思い出す。

 ほんのりと色付いたような薄青い髪をさらさらと揺らしながら、木陰に座って本を読むシンパスの姿は、幼いままに、育っていない。いや、それはシンパスだけではない。その周りを駆け抜ける子供――ランドールもアイシークも、カーヤトッニもシルフィラ自身も・・・幼い姿をして風に遊んでいる。まだ五歳にも満たない自分。・・・シルフィラが故郷の村を出たのは、五歳になってから数日経っただけの日のことだった。

 珍しい、青い髪が綺麗だった。長めに伸びた前髪の向こうの目の色は、灰色がかった青だった。髪も目も青いから、青い空がよく似合った。でも目は灰色がかってもいたから、しとしとと降る雨や曇り空も、よく似合っていた。緑の森も、枯れた草も、冷たい川の流れも、シンパスがそこにいると、おとぎ話の挿絵のように変わってしまうのだ。シンパスという子供・・・ヒトは、そこにいるだけで、周りまで巻き込んで自分を一つの絵画のように見せてしまう、そんな存在だった。

「シンパスはみんなを守ろうとして・・・気付くと、みんなバラバラになっちゃったんだ」

 ぽつりぽつり、と話し出す。





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