五章 “幻日” 5
毎日夜には二人静かに話をし、昼にはただ黙々と歩く。途中いくつか集落のように小さな人家の集まりを通り過ぎ、水や食料を分けてもらった。若い二人の旅に同情する者も多かったが、冷ややかな視線を向ける者も少なくなかった。二人はそのたびにわずかな労働力や魔術を用いて礼に代えた。 ――最後の集落を過ぎ、岩の道を通り過ぎればそこに目指す場所がある。シルフィラは近付けば近付くほど、決意を固めるように表情を硬くしていく。 コウには、わからなかった。その決意とはナニカを。 人家が一つ。岩の道を歩き続けて、着いたのだ。そこはシルフィラの故郷・・・遠い山奥にある、村とすら言えない集まり。もうすでに夕闇。空が近いからか、その色は濃く澄んでいた。 「・・・着いたな」 コウがぽつりと言う。疲れた様子が漂っている。だがどこか、ほっとしたような調子もあり、木々をすかして見える炎の光が暖かそうだ。 「・・・」 シルフィラは答えず、その場でふと立ち止まる。コウは数歩前に出てしまい、けげんそうに振り返る。シルフィラは前を見据え、大きく一つ深呼吸をした。 「・・・行こっか」 穏やかな声。歩いて、ゆっくりコウの横に並ぶ。コウはすこし遅れて歩き始めて、その横にぴったりつく。 二人は、そろって歩いていく。横に、並んで。そろって、二人で。
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