<月> 一章 “迷い子” 5
マスミの変化とともに何か違和感を含み始めた光良の周囲に群がる者達の中、クスハだけが、何も変わらない。クスハは相変わらずカノンと他愛もないことを喋り、光良と一定の距離感を維持し続ける。 一行から光良が離れきれないのは、このクスハの存在があるからだ。 光良は一人でどこかへ行ってしまう。それを追えないマスミ、追わないカノン、いつも一テンポ遅いヒビヤ。クスハだけが光良同様するりと抜け出して、光良をつれて教室に戻ってくる。 何を話しているのか、誰も知らない。ただクスハは、それを気負いもせずやってのける。支えるわけでも引っ張るわけでもなく、ただ横に立つ同等の存在として。それは、案外難しいものだ。 ・・・ある日、どうやって光良を連れ戻しているのか、光良がいない間にカノンがさりげなく尋ねた。クスハは不思議そうに首を傾げ、 「連れ戻しては、いないよ? ・・・ただね、一人って、寂しいでしょ? 私は一人が恐いから、私が、木崎君の横にいさせてもらってるだけ」 本心かららしいその言葉に、全員妙な顔をする。 「でも、ねえ、スズキちゃん。・・・スズキちゃんは別に、一人じゃないよね?」 カノンの疑問は最もだ。クスハはいじめられているわけでも、光良のように一人でいるわけでもない。するとクスハは首を傾げたまま淡く微笑み、 「誰かが一人でいるとね。私も一人なんだなあって、そう思う。・・・だから、木崎君が一人ってことは、私も一人。一人っきりだよ、私も」 その言葉には誰も何も言えず、ただ黙り込んだ。 ヒトは一人だ。そしてそれには、二種類の意味がある。 ――尊重するための一人か、区別するための一人か。 どちらが悪いとは言わない。どちらも必要なものだ。けれど、今の光良に必要なのは・・・。
|