〈月〉 三章 “撫でし子” 4
――異世界に行って、魔術師の男に拾われて、旅をして、何かが始まる前に、終わった。 覚悟を打ち砕かれて戻ってしまったこと、さよならも言えなかったこと、話したって誰にも信じてもらえないだろうこと。光良のせいで両親が離婚したこと、母がそれ以来おかしくなってしまったこと。・・・つらい現実ばかりが、目の前にある。 堰を切ったように話し続ける光良は、最後にはもう抱えた膝に頭を埋めてしまっていた。 「俺ばっかりが、悪いのかよ・・・」 脳裏に浮かぶのは、仲良き頃の父母の姿。遠い時代のこと、光良は“父さん”と“母さん”が大好きだったし、“映路おじさん”のことも好きだったし、友達だっていた。でも皆、光良がイケナイ子だったから消えた。 「いらないんだったら・・・初めから、生むなよ」 光良のことを運命だと言っていた父親は、今は新たな家庭で新しい妻と子どもを手に入れ幸せに暮らしている。お荷物なだけの光良に、母はいつまでも元夫との繋がりとしての希望を抱いている。 「どうしろって・・・いうんだ」 歪みきった家族の肖像に、光良の言葉は響かない。 現実は知れば知るほどつらいから。 無性に、会いたい。――あいつに会いたい。 鈍い金の髪、燃え落ちた炭のような目の色、お人よしで強いくせにへたれで、光良とよく似た目をした、あの異世界の青年に。
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