〈月〉 三章 “撫でし子” 5
光良は黙り込み、荒れ狂う心の中が静めようと深呼吸する。マスミとヒビヤは静かに、光良が顔を上げるのを待つ。 どれほど経ったか、やがて光良は強張った手を開き、抱えた膝を伸ばす。泣きそうな、けれど乾いた目で、二人を見て、 「・・・悪い」 苦笑する。マスミとヒビヤは小さく首を振る。 「・・・ありがとう」「・・・ありがとう、ございます」 真顔でそう言われ、何がと首を傾げる光良に対し、二人は目を見合せて、 「俺達に話してくれただろ」「僕達を信じてくれたでしょう」 声を重ね、笑いあう。その表情は実に晴々としている。 「・・・それは、違うんじゃないか?」 光良からすれば、マスミとヒビヤこそが“話を聞いてくれて、信じてくれた”のだ。困惑で柄にもなくきょとんとする光良を、しょうがないなという微笑で二人は見る。 「俺もヒビヤも、信じたいとは言った。でもまずは、俺達を信じてお前が話してくれなきゃ、何もわからないだろ」 「そうです。先輩は僕達に必ず話さなきゃいけない義務なんてないんだから、“俺の話を聞けて良かったな”くらいに思ってもいいんですよ」 「らしくないな。お前は誰に対しても、不遜なくらいがちょうどいいだろ」 マスミとヒビヤは、また互いに笑いあう。光良は完全に混乱した顔だ。 「僕達、木崎先輩・・・いえ、光良先輩の言ったこと、全部信じます。そもそも、そんな嘘をつく理由だってないんですし」 簡単に言われたその一言で、光良の中に淀んでいたものは一瞬で溶けていった。 ――誰かが信じてくれることが、これほどまでに嬉しいものだとは。 「・・・あり、がとう。レオ、ヒビヤ」 その喜びを初めて知った光良は、それを与えてくれた者達に、心の底から微笑んだ。
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