<月> 五章 “人の子” 1
どうせ、生きるしか道はない。 ――そうか。ならば、精一杯、楽しもうではないか。 光良は進路を決めた。ぼんやりとだが、やりたいこと、やろうと思うことがある。まだ将来はわからないが、そこを目指してみようと思う。母は賛成してくれた。高校に行って大学に行って、それでもまだまだ勉強しなさいと言った。 十二月の終わり、学校が短い休みに入る。・・・一月一日には皆で初詣に行こう、そう約束してから数日。その年は、いわゆるホワイトクリスマスだった。朝から冷え込んで、昼過ぎから雪が降り始め、着々と積もる。 光良は黙々と机に向かいつつ、ふと、カーテンをめくり外を見る。雪は、十センチほども積もっているだろうか。よく降ることだ。忍び寄る冷気にぶるりと震える。 と、 『・・・コウ』 誰かに、呼ばれる。 「・・・?」 周囲を見回す。誰もいない。もう一度外を見る。誰もいない。と、またしても、 『コウ・・・』 誰かが、間違いなく、光良を呼ぶ。 「・・・誰、だ?」 訊けば、声は沈黙する。 「誰だ、よ。おい、黙るな、答えろ!」 焦燥と、わずかな期待に駆られて、声を大きくする。立ち上がり、無意味に歩く。 「おい!」 声を荒げれば、声が答えを返す。 『・・・来て』 どこにと訊けば、声が告げる。 『屋上に・・・来て。コウ』 光良は部屋を飛び出し、雪の降りしきる中、傘一つ持たずに駆け出した。 「光良?! 待って、どこに行くの、光良っ!」 名を呼ぶ叫び声が聞こえたが、光良は振り返りもせず、走る。 行かなければ。屋上だ。あそこに――。
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