<月> 五章 “人の子” 4
雪が降る。積もっていく。世界を白に染めて、光良の心を真っ白にして。 ああ、地球はこんなに綺麗だっけ。コンクリートの屋上に、土と砂の校庭に、多くの家族が過ごしている家の屋根に、舗装された道に、音もなく積もっていく雪。その白は、人間が作った沢山の建造物全てと調和して、宵の闇を染め変えていく。 そうだ、今日はクリスマスだ。光良はそう思いながら、のろのろと顔を上げる。黒い雲がわだかまり、その黒が落とす白との対比が、とても印象深くて。 ――黒。沢山の色を重ねて、いつかヒトは、黒に染まるのだ。 その中でも一番の“黒”を思い出す。 『ごめんね』『ありがとう』『ばいばい』 最後の言葉は、たった三言。 お守りのブレスレットには、要の黒石だけがない。そこにいたメシアは、姿を見せることもなく、黒石は砕けて塵になった。あの声はもう、聞こえない。 ・・・メシアは、もういないのだ。 光良は大きく空を見上げ、目を閉じる。いなくなった存在は、きっとこの雪とともに、世界に溶けた。 ――バイバイ、俺の救世主。
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