〈月〉 五章 “人の子” 5
人っ子一人いない校内を通り、校庭に出る。寒さも痛みも、そろそろ感じない。少し眠い。寝てしまおうか、ここで。 たたずむ校庭は、白く広い。光良は空を仰ぎ、目を閉じる。 「・・・いた!」 「光良先輩っ!」 その時、名を呼ばれ、一度は閉じた目を開く。 「おい、光良!」 「光良先輩、大丈夫ですか?!」 ゆっくりと目を向けた方向に、校門をよじ登り必死の形相で駆け寄ってくる二人の姿。 「・・・レオ。ヒビヤ」 黒い髪、黒い目の、日本人で、学生で、光良の友。異世界のあの友とは違うけれど、同じように、光良を信じ、認めてくれる者達。 「お前、何してたんだ、こんな冷えて・・・!」 「死んじゃいますよ! こんな日に、そんな格好で・・・。先輩のお母さんから連絡があって、びっくりしましたよ」 「全くだ。一体、どうしたんだよ。・・・光良?」 傘をかざしてくれる腕。躊躇なく触れてくれる手。その、常夏のような温度。 「・・・っ」 いつか、この存在とも、別れの時はやってくるだろう。 光良はレオにしがみつき、声を上げて泣き始めた。驚くレオとヒビヤが慌てて何か訊いてくるのも、光良には聞こえない。ただ今は、この目の前の温もりが、光良の前にあることを確かめて。二度と会わない友といなくなった黒との別れを、泣くことしかできない。 ――出会いは尊きもの。そしてまた、別れも、尊きもの。光良は、それを、身をもって知った。 「光良・・・どうしたんだよ」 「光良先輩・・・」 レオは、すがりつく光良を、あやすように抱き。ヒビヤは、その凍えた体を温めるように、側に。泣きやむまで。 光良は、長く泣き続けた。・・・気の済むまで泣いた後、残るのは、少しの寂しさと、明ける空の輝きだけだ。
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