fate and shade 〜嘘と幻〜

<風>   一章 “探しビト”   2





 ここは街道から少し外れた森の中。

 通常、こんな夜、こんな場所で、人がたむろしているのはおかしいのだが・・・彼らを見たモノは誰でも、すぐその理由を推し量ることが出来る。そして、別におかしなことでもないと一つ頷くのだ。

 四人の男達が、一つの焚き火を囲んで大きな声で話し込んでいた。時々笑い声が上がるのは、機嫌がいい証拠だ。

 機嫌がいいのにはワケがある。賞金稼ぎである彼らは目当ての獲物を倒し、明日は以来の村へ行く。そこで賞金をもらうのだ。今回は大物だった、まったくだ、時節繰り返される会話に、褒賞もなかなかのものだろうと推測できる。

 とりあえず、彼ら四人、浮かれていて気もそぞろだった。木々のざわめきと話し声に混ざる第三の音源に、ほんの数歩ほどに近付かれるまで気付かないくらいに。

「・・・あの、ごめんください」

 控えめにかけられたそれに、文字通り、彼らは飛び上がった。慌てるあまり剣を抜きかける者までいたが、声の主を見た瞬間、そろってポカンと口を開け、その人間の姿に驚愕する。魔獣ではない人間だと安心する心の余裕すら吹っ飛んだ。

「あの・・・ご一緒しても、構いませんか。近くの村まで今日中に着いてしまいたかったのですけど、もう、こんなに暗いでしょう。道も不慣れなもので、一人は心細かったところなのです」

 その人間・・・女性は、いかにも不安げな表情をして、理知的な瞳で四人をうかがう。真摯に見つめられたからか皆うろたえた。代表して一人が返事をするまでに、十数秒数えられる間があった。

「あ、ああ・・・構わんよ」

 ありがとうございます、女性はほっと息をつく。焚き火の光に外れた木々の合間から姿を現し、暖かい、と火に当たる横顔にまたしても目をむいた。

 美しい。ソレは焚き火のほのかな赤色に彩られ、作りモノめいた微笑みを浮かべる。

「・・・あ、名乗り忘れていましたわ。私、シルフィと申します。里から里へ、ヒトを探して旅をしているんです」

 ・・・お邪魔でなければ、次の村までご一緒してもよろしいですか?

 私魔術師だから、一人旅は恐ろしくて。そう事情を語る女性・・・シルフィは、ごく少ない会話で男達を骨抜きにした。炎に揺らめく鈍金の髪も、焼け落ちた灰を思わせる目の色も、その美しさを、より魅惑的に神秘的に見せる。

 ――これからのち、一時有名になる、美貌と魔術の腕をもった女性シルフィ。男四人は、その最初の出会い人となる。




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