<風> 一章 “探しビト” 3
自給自足の生活を営む村の中には、娯楽がない。だから村人は集まる。酒場に。そしてたまたま流れ着いただけの賞金稼ぎもまた、ここに立ち寄っていく。 「・・・ってなワケなんだよ」 「うらやましいじゃねぇかよ! なんだ、その女はどこにいるんだ」 「もう出た。ほとんど休まないで行っちまったよ」 なんだよ、残念だぜ、言葉をそろえてため息をつく男衆。視線を向け興味津々とばかり身を乗り出している相棒に、彼はぼそりと言った。 「・・・聞いてきたらどうだ」 え、いいんか? とうかがうくるりとした明るい茶色の目を、ひらひら手を振ってやり過ごし、グラスの中身をちびりと飲む。夜半、酒場に来る目当てといったらたいてい酒と会話だが、青年のそれは酒でない。弱いからと、滅多なことでもない限り彼は酒を飲まない。相棒は、無理に飲まそうとはしないが、自身は十杯近く飲もうと酔わないうわばみで、下戸の相棒はつまらない、と時々愚痴をもらすこともある。 「じゃあ、遠慮なく」 相棒は本当になんの遠慮もなく男衆の中に紛れこんだ。オレにも聞かせてくれよ、おおいいぜ、軽い承諾が聞こえて、話し声が大きくなる。すると自然、彼の耳にも話が届いた。 「初めから話すけどな、俺達は魔獣を殺したばっかだった」 「そうそう、でっかいヤツさ。なかなか金になる獲物で、野宿しながら、もうみんな満足げにな・・・」 「酒でもあればな、って話してたんだぜ。ここに酒か、さもなきゃいい女でもいりゃあなって、なあ」 「ああ。そしたらな、来たんだ! まるで話でも聞いてたみたいに、こう、ツヤ消しの金みたいな髪色で、炭色に近い目して、とりあえず、キレイな女でさ」 彼は、耳から入るいらない情報をすらすらと聞き流す。なんとなく、話の続きも予想がつく。どうやら中心にいる男四人が女性に出会った本人達であるらしく、その周囲に群がるモノ達は口をつぐんで話に聞き入っている。さっきも聞いたのだろうに、とやや呆れ気味に思う。 「・・・で、どうしたんだよ?」 一際若い声は、相棒のモノだ。男達はどうやらもったいぶっているらしい。互いに視線を交し、頷きあって続けた。 「帰りも魔獣に会ったけど、すげぇ腕前の魔術師でな。俺達が出るまでもなく、倒してくれやがった。彼女、ヒトを探してるって言ってたんだ。覚えはないかって聞かれたけど、噂すら聞いたことねぇヤツでよ・・・」 にわかに興味を刺激されたのか、視界の端で相棒が目を大きくする。うん、と相槌を打って続きを待つ。四人のうち一人が口を開く。先程から実に平等にローテーションを組んでいる。見事だ、漠然と思う。 「青い髪に、灰色がかった青い目をした、今現在二十歳過ぎくらいの、キレイな顔したあんちゃんだと。シンパスって名前らしいぜ」 口に含んだ飲み物を噴く。げほっとむせるが、幸いなことに誰一人気にしていない。会話の内容に思わず体ごと向き直ると、やや真剣がかった瞳で、相棒が先に促している。一瞬だけこちらに目をやり、戻すと同時に尋ねる。 「へー、ヒト探し中の美貌の女性か。なあ、名前は?」 男の一人が大きく頷き告げる。ああ、シルフィさんだ。 何も飲んでいないのにまたもや激しくむせ返った彼は、今度は酒場中の誰もに注目されてしまった。
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